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『マグノリア』劇中曲のリレー歌唱と衝撃場面で世界を熱狂させた、PTAの傑作群像劇 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『マグノリア』劇中曲のリレー歌唱と衝撃場面で世界を熱狂させた、PTAの傑作群像劇 ※注!ネタバレ含みます。

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「マグノリア」に重ねられた意味



 マグノリアはモクレン属の花木の英名。PTAがこれをタイトルに選んだ理由のひとつは、映画の舞台となるロサンゼルス郊外サンフェルナンド・バレーに、Magnolia Boulevard(マグノリア大通り)という街路があること。この通りで何かが起きる、というのが脚本執筆初期のイメージだったという。俳優でテレビ司会者の父を持ち、映画スタジオやポルノ撮影所が立ち並ぶサンフェルナンド・バレーで育ったPTAは、自身の体験を第2作の『ブギーナイツ』と本作の物語に反映させている。PTAの父親は癌で亡くなった。父の若い再婚相手が処方薬の過剰摂取で意識不明になったのも、実際にアンダーソン家に起きたことだ。


 PTAはマグノリアについて調べるうち、樹皮から抽出される成分が癌の治療に役立つことを知った。過去に傷つき、失敗を悔い、病に苦しむキャラクターたちにとっての「救い」や「癒し」の象徴も、マグノリアに投影されたのだろう。



『マグノリア』(c)Photofest / Getty Images


 そしてもうひとつ。先述の超常現象研究家チャールズ・フォートは、天空の上にある神秘的な場所「マゴニア」(Magonia)について書いた。マゴニアとは、不運が空から降ってくる前に一時的に留まる場所だという。PTAはシカゴ・トリビューンのインタビューで、マゴニアについてこう説明している。「船が行方不明になると、マゴニアを漂い、20年後に空から碇(いかり)が降ってくる」。PTAはマグノリアに響きがよく似たマゴニアを気に入り、その意味もタイトルに含ませた。


 かくしてPTAは、エイミー・マンの楽曲やチャールズ・フォートの著作から得た着想に、自身の体験も交え、登場人物9人の物語が絡み合いながら展開する3時間超の大作を完成させる。2000年のベルリン国際映画祭に出品された『マグノリア』は金熊賞を受賞し、PTAが若き巨匠として世界に認められる最初の作品になった。製作費3,700万ドルに対して、北米での興行収入は2,200万ドル超と振るわなかったが、世界興収4,800万ドル超はPTAの歴代作品で『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』に次ぐ2位だ。全編を彩る印象的な楽曲と衝撃のハイライト、そして切なく愛おしい群像劇は、いつまでも映画ファンを魅了し続けることだろう。


【参考】

『マグノリア コレクターズ・エディション』ポニーキャニオン

『マグノリア オリジナル・サウンドトラック』ワーナーミュージック・ジャパン

マグノリア』ポール・トーマス・アンダーソン脚本 岡山徹編訳 角川文庫

『ユリイカ』2015年5月号 特集=ポール・トーマス・アンダーソン 青土社



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。


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