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ルカ・グァダニーノが生まれ変わらせた『サスペリア』の新解釈とは ※注!ネタバレ含みます。

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ルカ・グァダニーノが生まれ変わらせた『サスペリア』の新解釈とは ※注!ネタバレ含みます。

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厚みが加えられた設定とストーリー



 アメリカ人でダンサー志望の少女スージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)が、ドイツの著名なコンテンポラリーダンスを踊る舞踊団「マルコス・ダンス・カンパニー」の門を叩く。そこには、スージーが憧れるカリスマ振付師、マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)が在籍していたのだ。スージーは入団テストで目覚ましいパフォーマンスを見せてマルコス・カンパニーに迎え入れられ、新しい寮生活がスタート。その後、スージーの周りで様々な怪異が起こり始める……。


 ここまでの設定は、バレエがコンテンポラリーに変更されていることと、スージーの出自の描写が加えられているくらいで、表面的にはオリジナル版と大差がないように見える。しかし、この改変はメインテーマに連なる重要な意味が託されていることが、後々明らかになってゆくのだ。



『サスペリア』(c)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC All Rights Reserved


 面白いのは、オリジナル版ではミステリーとして作中に配置されていた、寮に響く謎の“いびき”が、本作では、スージーがアメリカから現地に到着した光景が映されているときに、アメリカに住む、彼女を忌み嫌う母親の呼吸音に差し代わり、それが不吉に響いてくるのだ。これはおそらく、遠く離れた地にいてもなお、彼女はその存在の根底で、望むと望まざるとに関わらず母親と結びつけられていることを示しているように思える。この生まれながらの「契約」は、ここでは忌まわしい呪いのように表現されている。


 スージーは舞踊団でめきめきと頭角を表し、マダム・ブランのお気に入りとなっていく。だが、何かがおかしい。ブランがスージーを指導し、振り付けたダンスを踊らせると、別の部屋でそのダンスに合わせて、恐ろしく惨たらしい出来事が起こる。犠牲になったのは、舞踊団から逃げ出そうとしていた一人の女性だ。そう、ブランの振り付けたダンスには呪術が仕掛けられていた。そしてマルコス・ダンス・カンパニー自体が、ブランを含めて魔女の集団によって構成されていたのだ。同時期、おりしもカンパニー経営陣の定例となっている代表者選挙が佳境を迎えていた。マダム・ブランは投票数で肉薄するも、選挙戦の結果は、まだ映像のなかに姿を表していない女性、エレナ・マルコスの勝利に終わる。



『サスペリア』(c)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC All Rights Reserved


 このあたりになってくると、本作がオリジナル版の設定と比べ、かなり厚みが加えられているのが分かる。オリジナルでは、アメリカから来た少女スージー・バニヨン(ジェシカ・ハーパー)が、ドイツに根を張るおぞましい魔女の陰謀を解き明かしていくという内容だった。寮の少女たちが次々と魔女たちの犠牲となるなか、なぜ彼女が魔女に対抗する力を持っていたのかは、劇中では説明されない。そこに理由を見つけようとするなら、彼女がヨーロッパの地域的な呪縛や、一種の情緒から逃れ得ている“外側”の人間だったからということではないだろうか。ともあれ、ここでの魔女集団というのは、あくまで邪悪な搾取者としてのみ描かれている。



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