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『アビエイター』伝説の大富豪ハワード・ヒューズ、豪快人生の光と影

(c)Photofest / Getty Images

『アビエイター』伝説の大富豪ハワード・ヒューズ、豪快人生の光と影

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プロデューサー兼主演、レオナルド・ディカプリオがヒューズの「孤独」に託した想いとは?



 ちなみにヒューズは1932年の半ばに一度映画製作から身を引くのだが、その直前に『暗黒街の顔役』(1932年/監督:ハワード・ホークス)という、スコセッシも自身のフェイバリットによく挙げるギャング映画の傑作を放っている(1983年、ブライアン・デ・パルマ監督がオリヴァー・ストーン脚本、アル・パチーノ主演で『スカーフェイス』としてリメイクした)。


 映画史の重要な逸話を含みつつ、破天荒な欲望の暴走、その光と影をクロニクル(年代記)仕立てで描くハワード・ヒューズ物語は、『レイジング・ブル』(80)や『グッドフェローズ』(90)、『カジノ』(95)や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などにも通じる、いかにもスコセッシ好みの題材に思える。だが、これはまったく意外なのだが、スコセッシは『アビエイター』の企画を依頼されるまで、ハワード・ヒューズのことに興味はなかったらしい。


 DVDプレミアム・エディションのオーディオコメンタリーでもこんな発言を残している。「僕は当初、何も知らずに脚本を読んだ。マネージャーが“ぜひ読むべきだ”と。題を見ても“飛行機の話か”と特に気乗りしなかった」――。


 では、誰がハワード・ヒューズという特異な人物に執着したのか? と言えば、それはエグゼクティヴ・プロデューサーも兼ねた主演のレオナルド・ディカプリオである。ディカプリオは10代の時にヒューズの伝記を読んで魅了され、いつか彼の生涯を映画にしたいと夢見続けてきた。少年期から芸能界入りしてショービズ業界に身を置いていた彼は、新しい時代を切り開く創造性と先見性にあふれていた若き日のヒューズの活力と、その繊細な内面に惹かれたのかもしれない。


  やがてディカプリオは、『ヒート』(95)や『インサイダー』(99)などの監督として知られるマイケル・マンに相談を持ちかけ、脚本を『グラディエーター』(2000年/監督:リドリー・スコット)などのジョン・ローガンに依頼。マイケル・マンが製作に専念することに決めたため、監督をスコセッシに任せた次第だ。ディカプリオは8年間も粘り強くこの企画を温め続け、『アビエイター』は自身で旗揚げしたプロダクション「アッピアン・ウェイ」で初めて製作を担当した作品となった。


 誰よりもヒューズへの思い入れが強いだけに、本作は内容的にもディカプリオの意向は大きいと考えていいだろう。脚色の特徴として注目したいのは、大女優のキャサリン・ヘップバーン(演じるのはケイト・ブランシェット。この役でアカデミー賞助演女優賞を受賞)との恋愛をとりわけ大きなエピソードとして扱っていることだ。



『アビエイター』(c)Photofest / Getty Images


 ふたりが蜜月の関係にあったのは1936年の出会いから約3年間ほどであり、ヒューズの70年の人生からすると、時期的に大きな割合を占めるものではない。だがこの『アビエイター』を観ると、キャサリン・ヘップバーンはヒューズが生涯で唯一出会ったソウルメイト的な人物であり、彼女と別れてしまうことで、彼自身の人生が決定的なターニングポイントを迎えるという物語構造になっている。エネルギッシュな祝祭の日々から、寂寥や沈鬱、あるいは崩壊のトーンへと――。


 そう考えると『アビエイター』の真の主題は、ヒューズの「孤独」ではないかと思えてくる。最も象徴的なのは冒頭シーン。豪奢な屋敷の一室、若くて美しい母親に体を洗ってもらっているヒューズ少年の姿。そしてラスト。大人になったヒューズは、暗闇の中に立っている幼き日の自分を見つめている。そしてヒューズ少年はこう母親に告げる。


「僕は大きくなったらいちばん速い飛行機に乗るんだ。そしてすごい映画を作る。世界一の金持ちになるんだ」。


 映画全体を挟み撃ちするように、この最初と最後に提示されたイメージは、あらゆる夢や栄光の裏にある「ひとりぼっちの男の子」としてのヒューズだ。そんな根の深い「孤独」を核にして、ディカプリオは同じスーパーセレブとしてのパーソナルな想いを託したのか。こういった視座から捉え直すと、『アビエイター』という大作映画の見え方が少し変わってくるかもしれない。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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