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『ザ・バニシング -消失-』観客に委ねられる真の恐怖と不安とは

(c) 1988, Argos Film, Golden Egg, Ingrid Productions, MGS Film, Movie Visions. Studiocanal All rights reserved.

『ザ・バニシング -消失-』観客に委ねられる真の恐怖と不安とは

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“もう一人の”不気味な主人公



 本作は、オランダからフランスへと旅行に来た若い夫婦、レックス(ジーン・ベルヴォーツ)とサスキア(ヨハンナ・テア・ステーゲ)が乗った車が走っているところから始まる。途中、旅行にありがちな夫婦ゲンカを経験しながらも、仲直りしてドライブインに立ち寄る2人。そこで事件は起こる。


 サスキアがキラキラした笑顔を見せながら、ちょっと飲み物を買いに、車で待つレックスから離れた後、そのまま姿を消して戻ってこない。レックスは当然、そこでできるあらゆる手を尽くしてサスキアの居場所を探そうとするが、彼女はついに見つかることはなかった。


 むしろここまでは、映画ではありがちだと思えるような展開だといえるだろう。本作が異常な雰囲気を持ち始めるのは、この後からだ。ここで唐突に、ベルナール・ピエール・ドナデューが演じる、それまでの2人とは関係がなさそうに見えるフランス人の中年男性レイモンに、主人公が交代されることになる。



『ザ・バニシング -消失-』(c) 1988, Argos Film, Golden Egg, Ingrid Productions, MGS Film, Movie Visions. Studiocanal All rights reserved.


 レイモンは妻も娘もいる、傍目から見れば幸せそうな家庭を持つ、ごく一般的に見える人物だ。そんなレイモンは、一人になると怪しい行動をとり始める。どうやら彼は、若い女性を自分の車におびき寄せて、そのまま誘拐しようとする計画を着々と進めているようなのである。観客は、ここでサスキアの事件を思い出し、嫌な予感を覚えるだろう。


 興味深いのは、綿密に立てたはずのレイモンの計画は、彼がそれを実際に試そうとしてみると、無様な失敗を繰り返してしまうというところだ。きわめて悪質な行為ながら、そのマヌケな姿には思わず笑ってしまうし、ややもすると、観客自身も彼の犯罪に荷担しているような気分にすらなってくるかもしれない。



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