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『荒野にて』 少年と馬の境遇が映し出したのは、現代の“アメリカ”

(c) The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

『荒野にて』 少年と馬の境遇が映し出したのは、現代の“アメリカ”

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現代のアメリカ社会が失っていくものとは



 このような状況を受けた本作が暗示するのは、そんな社会において、経済的な勝ち負けが明確に分かれてしまったアメリカ社会の末端の姿だ。一つのレースで一着になる競走馬が一頭しかいないように、このような競争社会で勝てる人間はごく一部しかいない。そこで脱落した多くの不幸な人々は、健康な生活すら危うく、病院でも満足な治療を受けることができない場合が多い。


 優しい心を持っていたチャーリーは、暴力的な世界の理不尽に耐えかねて、外へと飛び出した。しかし、旅の途中で立ち寄った場所にも大きな差はなかった。親切なウェイトレスにも出会うが、チャーリーが目にするのは、荒んだ環境のなかで社会的な弱者が、より弱い者を虐げて生活している姿である。そんな環境のなかで、チャーリー自身も、純粋な魂を失いかけてしまう。そうしなければ、生きることができないからだ。彼を演じるチャーリー・プラマーは、その悲痛な葛藤を見事に表している。



『荒野にて』(c) The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017


 本作が撮られるのには、マッチョがふたたび台頭するいまのタイミングがふさわしいように思える。また、ここでは国外の監督によってこの問題が描かれることで、冷静な目で手加減なく、その状況をとらえることができたのではないだろうか。


 かつて『荒馬と女』が映し出したのは、進歩的な社会の流れに順応できず立ちすくむ人々の姿だった。しかし本作では逆に、後退していく社会のなかではじきだされ、苦悩する少年の姿が描かれる。それは、現実のアメリカの状況を反映しようとした結果だと考えられる。そんな世界で犠牲になり失われるのは、他者への優しさであり、思いやりなのだと本作はうったえている。



文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter: @kmovie



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『荒野にて』

2019年4月12日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国順次ロードショー

配給:GAGA

公式サイト: https://gaga.ne.jp/kouya

(c) The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017


※2019年4月記事掲載時の情報です。

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