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意義ある“興行失敗作”。キャメロンが『アビス』(深淵)で見たものとは

(c)Photofest / Getty Images

意義ある“興行失敗作”。キャメロンが『アビス』(深淵)で見たものとは

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『アビス』あらすじ

アメリカの原子力潜水艦が、深海油田発掘基地付近で行方不明に。採掘基地のクルーらと海軍ダイバー・チームは捜索のため、暗黒と寒冷と恐るべき水圧で人類を拒むアビス<海溝>へと向かう。そこで待っていたものは、海底深くに生活している人類とは違う生命体だった。。



 ジェームズ・キャメロンが監督・脚本を務めた劇映画全7本(監督デビュー作『殺人魚フライングキラー』は脚本を担当しておらず、途中降板という事情もあり含めない)のうち、第3作にあたる『アビス』(89)は、北米興収、世界興収とも『ターミネーター』(84)に次いで2番目に低い成績だ。ただし、『ターミネーター』は640万ドルという低予算で作られたが、世界興収では7,800万ドル超と10倍以上の数字を達成しており、費用対効果では大成功と言えるだろう。


 一方の『アビス』は、前作『エイリアン2』(86)の成功もあり製作費が約5,000万ドル(『アビス 完全版』DVDパッケージ説明文より)と大きく膨らんだにもかかわらず、北米興収は約5,400万ドルとほぼとんとん、世界興収が約9,000万ドルと予算の2倍弱にとどまり、興行面では失敗だった。


 それでも、『アバター』(09)と『タイタニック』(97)が世界興収歴代1位、2位を堅持している現在から振り返ってみると、キャメロンが『アビス』で得た経験と教訓、新たな出会いが、のちの成功の礎となったことを読み取ることができる。


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高校時代に出会った「液体酸素」が出発点



 ナイアガラの滝からほど近いカナダの小さな町チッパワで育ったキャメロンは、60年代にテレビ放映されていたジャック=イヴ・クストーの海洋ドキュメンタリーに夢中になり、十代で早くもスキューバダイビングの教室に通い始めている。高校生の時に科学で優秀な成績を収めたキャメロンは、米国の大学から招かれ講義を受講する機会を得る。そこで受けたある講義は、ダイバーが液体酸素で呼吸する実験の様子を紹介するものだった。


 この実験は、気体ではなく液体を肺呼吸することで、ダイバーが水圧の変化に適応しやすくなるという理論に基づくもの。人体を深海環境に耐えられるようにすることを最終目的にしていた。


 この実験に驚き、インスピレーションを得たキャメロンは翌日、短編小説『The Abyss(深淵)』を一気に書き上げる。カリブのケイマン海溝の縁にある科学研究所を舞台に、液体酸素装置を装着したダイバーたちが一人また一人と深海に潜っていく――というストーリーだ。



『アビス』(c)Photofest / Getty Images


 時は流れ、『エイリアン2』で大成功を収めたキャメロンは、次回作の企画として、この短編小説のプロットを海中アクションSF大作に発展させることにした。少年時代に驚かされた液体酸素も、しっかりとストーリーに組み込んでいる。人体に応用する研究自体は実用化が見込めず中止になっていたが、キャメロンは研究の中心人物にアドバイスを仰ぎ、序盤でピンク色に染めた液体酸素の中にマウスを入れるシーンを、特撮ではなく実際に撮影している(マウスは本当に液体酸素を肺呼吸し、無事に生還した)。


 一方、終盤で主人公のバド(エド・ハリス)が潜水服のヘルメットに液体酸素を入れて海溝に潜るシークエンスでは、ヘルメット内に水が注入され、ハリスはそれを呼吸しているように(実際は息を止めて)演技している。



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