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50年代究極の娯楽作『北北西に進路を取れ』に見るヒッチコックの監督術

(c)2009 Turner Entertainment Co. and Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

50年代究極の娯楽作『北北西に進路を取れ』に見るヒッチコックの監督術

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ゼロから発想を掛合せ構築されたストーリー



 本作は原作モノではない。脚本家のアーネスト・レーマンとヒッチコックが共にゼロから作り上げたものである。まず着想の原点となったのはヒッチコックが口にした「ラシュモア山でチェイスをやりたい!」という案だったとか。ラシュモア山とは米国史に燦然と輝く4人の大統領の顔が掘られたあの場所のことである。



『北北西に進路を取れ』(c)2009 Turner Entertainment Co. and Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 つまり、最初からガッチリしたオリジナル・プロットがあったわけではなく、ヒッチコックとレーマンは様々なアイディアを次々とひねり出しては取捨選択して融合させ、「”ジョージ・カプラン”なる謎の人物に間違えられた男が、謎の組織に追われ、北北西のラシュモア山へと向かう」というストーリーを紡ぎ上げた。その過程ではあえなくボツになった魅力的なアイディアも星の数ほどあったようだ。例を挙げると・・・


例1)国連の議場。壇上の人物が突如スピーチを中断し「そこの席の大使が居眠りをやめなければ、もう喋らない」とヘソを曲げる。だが、大使を揺り動かしても起きる気配はない。なぜなら彼は寝ているのではなく、殺されているから。そして傍らにはヘラジカの角の絵(なにやら「北西」という方角を象徴するものらしい)。これをきっかけに物語は一路「北西」へと駒を進めていく。


例2)自動車工場。ベルトコンベアーの流れ作業を背景に、ケイリー・グラントと作業員が話しながら歩いている(それをドリー撮影で延々と撮る)。背後で枠組みが出来上がり、部品が装備され、徐々に形を帯びていく一台の車。そうして二人の会話が終わる頃、出来上がった自動車の扉をいざ開くと、今まさに話題にのぼっていた人物の死体が転がり落ちてくる。


 なんと上質なアイディアなのだろう。実際の映像が目に浮かぶかのようだ。ボツになった理由について書籍「映画術」には、「たとえどんなにおもしろくても、無意味なシーンをまったく無意味に使うわけにはいかんからね」という巨匠の言葉が記されている。



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