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『ドゥ・ザ・ライト・シング』“LOVE”&“HATE”の意味を問い続けるスパイク・リー監督作

(C) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

『ドゥ・ザ・ライト・シング』“LOVE”&“HATE”の意味を問い続けるスパイク・リー監督作

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人種間の差別や対立をパワフルに描いた群像劇



 映画で切り取られているのは、ある暑い夏の日の風景だ。舞台はニューヨーク、ブルックリンのベッドフォード・スタイヴィサント。そこにはアフリカ系のアメリカ人を中心に、イタリア系、プエルトリコ系、韓国系など、さまざまな人種が住んでいる。中心になるのはイタリア系アメリカ人のサル(ダニー・アイエロ)が経営する一軒のピザ屋。


 この店の出前として働いているのが、アフリカ系アメリカ人のムーキー(スパイク・リー自身が演じる)で、責任感に乏しい彼は出前に出ると何時間も帰ってこない。彼にはプエルトリコ系の恋人や彼女との間に生まれた幼い息子もいるが、父親としての自覚にも乏しい。 


 その日、気温は37度を超えていて、サルの店の常連のひとり、バギン・アウト(ジャンカルロ・エスポジト)が“ウォール・オブ・フェイム”と題された店の壁を見る。そこにはアル・パチーノやフランク・シナトラなどイタリア系の俳優や歌手の写真しかない。そこで彼はアフリカ系アメリカ人の写真も飾ってほしいとクレームをつける。さらに大音量の音楽が流れるラジカセを抱えたラジオ・ラヒーム(ビル・ナン)が店に現れると、サルが音を下げるように忠告し、ラヒームはそれに抵抗する。


『ドゥ・ザ・ライト・シング』(C) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.


 サルの店は20年間以上に渡って、地域の人々に愛されてきたが、バギン・アウトやラヒームのささやかな反発をきっかけにして、心の奥に隠れていた人種間の緊張感が高まり、やがて大きな事件へと発展する。前半は軽快なコメディ調だが、後半は一転して、衝撃的な暴動がパワフルに描かれていく。


 この映画の全米公開から3年後の92年にロサンゼルスで大きな暴動が起きた。そのひとつの発端になったのは、スピード違反を犯した黒人、ロドニー・キングに暴力をふるう白人警官たちの姿を撮影した映像で、裁判の結果、警官たちに無罪判決が言い渡されたことがひとつのきっかけとなり暴動へと発展した(スパイク・リー監督の『マルコムX』(92)の冒頭でも、ロドニー・キング事件の映像が使われている。


 『ドゥ・ザ・ライト・シング』には、まるでそれを先取りしたかのような場面も登場する。後半、ピザ屋で暴動が起きると警察官が出動して、ラジオ・ラヒームの首をこん棒でしめ、予期せぬ悲劇が起きてしまう。


 そして、映画のラストシーンでは60年代の黒人解放の活動家、マルコムXとキング牧師が一緒に映った写真が映し出される。キング牧師はあくまでも平和主義を貫いたが、マルコムは自己防衛のための暴力は暴力ではないという思想を持っていた。そのどちらが正しいのか? 映画は暴力に対して結論を下さず、判断を見る人にゆだねる。



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