20世紀屈指の感動作『タイタニック』のスペクタクルを生んだ前例なき挑戦

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2019.05.14高森郁哉

永遠に響くメッセージ

　97年夏の段階で、仮編集版は3時間22分あったが、テスト試写を経ていくつかのシーンが削られた。たとえばエンディング近く、現在のローズ（グロリア・スチュアート）が調査船の船尾の柵に足をかける場面。削除されたシーンでは、孫娘のリジー（スージー・エイミス）とトレジャーハンターのブロック（ビル・パクストン）が気づいて駆け寄る。ローズはそこからの会話で、重要なのは物質的な富ではない、明日をも知れない人生の一瞬一瞬を大切に生きることこそが宝物なのだ、とブロックを諭す。

　キャメロンは海底に眠るタイタニック号をその目で見て、沈没の悲劇から学んだ教訓を胸に刻み、ローズの台詞に込めた。俳優たちの演技は素晴らしく、監督も気に入っていたシーンだったが、そこまで説明しなくても観客に伝わるだろうと思い直して削ることにしたという。

　キャメロンが自由な精神のアーティストであるジャックに自身を重ねたことは前回記事で触れたが、潜水艇に乗り込んで沈没船の宝を探すブロックにも彼の一面が投影されている。野心的な冒険家と芸術家肌のロマンチスト、その二つが共存しているのがジェームズ・キャメロンという稀有な存在であり、そんな監督による前例のない挑戦の数々が歴史的超大作『タイタニック』を生んだ。キャメロンが作品に込めた普遍的なメッセージは、時代を超えていつまでも響き続けるだろう。

＜参考＞

1.『タイタニックジェームズ・キャメロンの世界』ポーラ・パリージ著鈴木玲子・訳ソニー・マガジンズ

2.『ジェームズ・キャメロン　世界の終わりから未来を見つめる男』レベッカ・キーガン著吉田俊太郎・訳フィルムアート社

3. DVD『タイタニックアルティメット・エディション』20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

4. 『ジェームズ・キャメロンのタイタニック』エド・W・マーシュ著名木宏之訳竹書房

文：高森郁哉（たかもりいくや）

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証！フォースの正体から銀河間旅行まで』（マーク・ブレイク＆ジョン・チェイス著、化学同人刊）ほか。

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