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『ダンケルク』クリストファー・ノーランが世界最高解像度のIMAXカメラで収めた、戦争という名の膨大な浪費

(c) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ダンケルク』クリストファー・ノーランが世界最高解像度のIMAXカメラで収めた、戦争という名の膨大な浪費

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世界最高峰の解像度でノーランが描きたかったものとは



 ノーランは本作を作るにあたり、戦争映画の傑作『プライベート・ライアン』の状態の良いフィルムをスピルバーグ監督本人から借り受け鑑賞したとのこと。そして、目指すべき方向性を見定めたという。


 『プライベート・ライアン』といえば、冒頭のノルマンディー上陸シーン。銃弾の嵐に破裂する爆弾、飛び散る血しぶきに吹き飛ぶ肉片、あっけなく虫ケラのように次々と死んでいく兵士たち。阿鼻叫喚の戦争地獄絵図が圧倒的な臨場感を持って展開される。水際の攻防という点では『ダンケルク』でも同じようなシーンが想像されてもおかしくないだろう。しかし、ノーランは違った。同じ戦争映画でも『プライベート・ライアン』とは違うアプローチを取ったのだ。


 世界最高峰の解像度で切り取った『ダンケルク』は、息を呑むような圧倒的な臨場感が映画全体を覆っている。だがそれは『プライベート・ライアン』の戦場の真っ只中に放り込まれる感覚とは少々異なる。「70年以上前の戦争」という我々にとっての「非日常」な出来事を、高解像度のクリアな映像を用いる事により、今そこにあるリアルな「日常」として映し出しているのだ。戦闘機や戦艦、逃げ遅れた膨大な人数の兵士など、CGを極力使わないノーランの本物主義も相まって、まさに「現実」としての臨場感で見ているものに迫ってくる。


 故郷に帰りたい一心でなす術なく逃げるだけの現実。極限状況で判断を見誤る現実。多くの兵士や民間人、船や飛行機などが、惨禍に引きずりこまれ続けていく現実。『ダンケルク』はエンターテイメント色の強い戦争映画という形を借りながらも、戦争という抗えない大きな力によって莫大な浪費を続けてしまう虚しさと残酷さを、否が応でも突きつけてくるのである。



『ダンケルク』(c) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.


 ジャンルと手法は全く違うが、日本のアニメ映画の秀作『この世界の片隅に』も、アプローチとしては似ているように思われる。この映画は、戦時中の女性の日常をホームドラマ中心に丁寧に描いており、反戦メッセージの類は全く前面に出てこないのだが、逆にこの丁寧に描かれた日常が、結果として戦争の愚かさや虚しさを浮き彫りにし、胸に迫ってくるのである。


 「戦争映画」というジャンルに対峙したノーランは、『ダンケルク』という答えを出した。それは、IMAXカメラを駆使しCG無しの本物を撮るノーランだからこそ成し得た答えであり、そしてそれはまた、映画史においても新たな答えを生み出したと言えるのではないだろうか。



参考資料:映画『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』




文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


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公式サイト: http://wwws.warnerbros.co.jp/dunkirk/

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