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『ミッドナイトクロス』タランティーノも絶賛する、ブライアン・デ・パルマの偉大で重要な傑作

(c)Photofest / Getty Images

『ミッドナイトクロス』タランティーノも絶賛する、ブライアン・デ・パルマの偉大で重要な傑作

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影響を与えた実際の事件たち



 デ・パルマ自身がその影響を認めている通り、録音を聞いて犯罪を発見する物語を有する『ミッドナイトクロス』の原題『Blow Out』は、ミケランジェロ・アントニオーニ『欲望(原題:Blow Up)』(66)から取られたものだろう。『欲望』は、深夜の公園で密会しているカップルを盗み撮りした写真家が、その写真を現像して引き延す(ブロー・アップする)と、死体が写っていたことからサスペンスが始まるが、本作では〈写真〉を〈音〉に置き換えているわけだ。ここでデ・パルマは、音そのものの機能ではなく、それがどのようにマクガフィンとして物語の動機づけに機能するかを試みているのである。


 また、『デ・パルマ』内で彼は、「チャパキディック事件を参考にした」と公言している。チャパキディック事件は、1969年、エドワード・ケネディ上院議員が若い秘書とチャパキディック島でのパーティを抜け出したドライブ中に橋から川に転落したものの、彼はひとりだけで脱出し、秘書は車内で死亡した事件であり(彼は兄のジョンやロバートに続いて大統領を目指していたがこの事件の影響でその夢は潰えた)、本作で起こる自動車事故は、この事件を基にしている。


 あるいは、「私は暗殺事件に関する本が好きだ。ケネデイ大統領暗殺事件で特に興味深い点は実に多くの検証がなされていること。『ミッドナイトクロス』では主人公が真実を探る。だが暗殺事件では犯人がわかっても誰も気にしないと思う」とデ・パルマが語っているように、暗殺のモチーフは1963年のケネディ大統領暗殺事件に由来するだろう。原題「ブロー・アウト」には、「車のパンク音」のほかに、「問題のテープの音を吹き消す」「目撃者を消す」という意味も含まれている。



『ミッドナイトクロス』(c)Photofest / Getty Images 


 さらに、デ・パルマは別のインタビューで「ジョン・リスゴーのキャラクター(殺し屋)はジョージ・ゴードン・リディに密接に基づいている」と明かしている。リディは、リチャード・ニクソン大統領が政府からの情報漏洩を防止するために作った秘密工作班「鉛管工」の指揮を執っていた。彼は、違法な手段を用いてベトナム戦争反戦活動家や民主党員らを監視する不正工作を主導していた人物で、この動きから対立候補の妨害や1972年のウォーターゲート事件の盗聴に繋がったと言われている。


 同時にデ・パルマは、本作が、殺人計画に巻き込まれた盗聴屋を描いたコッポラのサスペンス『カンバセーション…盗聴…』(74)へのトリビュートであることも認めている。このように本作には、60~70年代の様々な米国の政治的出来事への暗示が含まれているのだ。公開当時、ナンシー・アレンは、「ウォーターゲートやケネディ家のことを考える人もいるでしょう。この映画は、過去20年間に実際に起こったことについて、私たち全員が感じている混乱を反映しています」と語っている。



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