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『ゴールデン・リバー』が描いたのは、「西部劇」ではなく西部開拓時代に生きる人々の物語

(C) 2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

『ゴールデン・リバー』が描いたのは、「西部劇」ではなく西部開拓時代に生きる人々の物語

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※2019年7月記事掲載時の情報です。

※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『ゴールデン・リバー』あらすじ

「俺たちはシスターズ兄弟だ」──その言葉に誰もが震えあがる、最強の殺し屋兄弟がいる。1851年、オレゴン。兄の名前はイーライ(ジョン・C・ライリー)、弟はチャーリー(ホアキン・フェニックス)、雇い主はあたり一帯を取り仕切る提督だ。度胸があり提督からの信頼も得ているチャーリーが、リーダーとして仕事を仕切り、兄はそんな弟のワガママをぼやきながらも、身の回りの世話を引き受けていた。彼らに与えられた新たな仕事は、連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)が捜し出すウォーム(リズ・アーメッド)という男を始末すること。とりとめのないバカ話をしながら、サンフランシスコへ南下する。兄弟が馬で山を越えていた頃、モリスは南へ数キロ先のマートル・クリークで、ウォームを見つける。時はゴールド・ラッシュ、金脈を求めて群れをなす採掘者の中に、ウォームの姿もあったのだ。


2日後、次の町ウルフ・クリークで、モリスはいきなりウォームから「前に会った?」と声を掛けられ、慌てて「人違いだ」と答える。だが、屈託なくモリスの笑顔を褒める人懐こいウォームに、作戦を変えて昼食をおごると誘う。うまい具合に話は進み、ウォームと一緒にジャクソンビルへ砂金を採りに行くことになったモリスは、シスターズ兄弟に「急がれたし」と手紙を残す。旅の途中でウォームはモリスに、にわかに信じがたい話を打ち明ける。自分は化学者で、金を見分ける“予言者の薬”を作る化学式を発見したというのだ。だが、ジャクソンビルに到着し、モリスの動きに不信を抱いたウォームが、彼のカバンを探ったことから、モリスの正体と目的がバレてしまう。モリスはウォームを拘束するが、雇い主の目的は化学式を奪うことで彼が化学式を教えるまで兄弟に拷問されるだろうと知って動揺する。


翌朝、モリスはウォームと逃げ出すことを選び、連れ立って出発する二人。道中、ウォームはモリスに、手に入れた金で「野蛮な世界を終わらせ、理想郷を作る計画」について滔々と語る。初めは半信半疑で聞いていたモリスだが、次第に彼の話に引き込まれ、その思想に心酔していく。やがてモリスは、亡き父の遺産を資金に、ウォームの夢に加わることにする。モリスを信じてメイフィールドまで来た兄弟は、その町に自分の名前をつけた権力者が、ウォームの化学式を奪うべく部下を放ったと聞き、初めてモリスの裏切りを知る。普通の暮らしに憧れていたイーライは、これを機会に引退しようと持ち掛ける。だが、裏社会でトップに立つ野望を抱くチャーリーには論外だった。


サンフランシスコに到着した兄弟は二人の居所を突き止めるが、追っ手を予測していた彼らに捕えられる。やがてメイフィールドの部下も現れ、二人はやむなく兄弟の力を借りて、彼らを撃退するのだった。ウォームからの提案で、黄金を採るために、手を組むことになる4人。初めは互いに疑心暗鬼だった2組だが、兄弟もまたモリスと同じようにウォームのカリスマ性に魅せられ、奇妙な友情と絆が生まれていく。だが、いよいよ“薬”を川に流したその時、黄金と一緒にそれぞれの思わぬ欲望が、ギラギラと浮かび上がる──。


Index


西部劇の枠にはまらない独特の風合い



 面白さは疑いようがない。だがこの映画、何とも奇妙だ。西部劇なのに、そうではない。サスペンスかと思いきや、ブロマンスの香りが漂う。撮影技法やカット割りも古風と新味が混ざり合い、作品全体が陽炎のように揺らめいている。風格たっぷりの重厚作だが、同時につかみどころがない。この独特の風合いは一体何なのだろう? こちらが予測するジャンルの枠をかわし続ける、変幻自在のブレ球映画だ。


 『君と歩く世界』(12)『ディーパンの闘い』(15)の巨匠ジャック・オーディアール監督が手掛け、ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドという演技派たちが共演した本作。元々はライリーが映画化権を獲得し、オーディアール監督に打診したという。


『ゴールデン・リバー』予告


 さらに、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)『ビューティフル・デイ』(17)等を製作した「ホワイ・ノットプロダクション」や『her/世界でひとつの彼女』(13)『バイス』(18)で知られる「アンナプルナ・ピクチャーズ」が名を連ねており、2018年に行われた第75回ベネチア国際映画祭では、監督賞に当たる銀熊賞を受賞(ちなみに第75回ベネチア国際映画祭は、金獅子賞を『ROMA/ローマ』、審査員大賞を『女王陛下のお気に入り』がそれぞれ受賞している)。フランスのアカデミー賞であるセザール賞では、監督賞・撮影賞・美術賞・音響賞に輝き(第44回・19年)、映画としてのクオリティは十分すぎるくらい保証されている。


 本作の舞台は、ゴールドラッシュに沸くアメリカ。「最強の殺し屋兄弟」と恐れられる兄イーライ(ライリー)と弟チャーリー(フェニックス)は、権力者である「提督」の依頼で、科学者ウォーム(アーメッド)を追う。しかし、連絡係のモリス(ギレンホール)が2人を裏切り、ウォームと組んだことで事態は思わぬ方向に……。



『ゴールデン・リバー』(C) 2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.


 本作の面白さの1つは、4人の関係性が変化していく点。最初は「仲間3:敵1」だったのが、モリスの裏切りで「仲間2:敵2」へと変わり、4人が手を組んで黄金採掘を始めたことで「仲間4:敵0」に推移していく。さらに黄金を前にした瞬間、予想外の行動をとる者が現れ、混乱は加速。4人の運命は!?


 …という展開なのだが、額面通りに受け取ってコンゲームを期待すると肩透かしを食らうだろう。本作は、関係性が変わるという「筋」を楽しむというより、関係性の変化に至らせた4人それぞれの「深層心理」に想いを馳せる方がしっくりくる構造になっている。


 つまり、描こうとしているものは最初からキャラクター、「人間」自体なのだ。



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