1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 第9地区
  4. 『第9地区』完全CGでないから実現できた!?“エビ型”宇宙人のリアルな感情表現の秘密とは?
『第9地区』完全CGでないから実現できた!?“エビ型”宇宙人のリアルな感情表現の秘密とは?

(c) 2009 District 9 Ltd. All Rights Reserved.

『第9地区』完全CGでないから実現できた!?“エビ型”宇宙人のリアルな感情表現の秘密とは?

PAGES


『キング・コング』が魅せた一人二役の妙



 ちなみに、同じような、「素顔が見えない重要な演技」として映画史に刻まれるものとして『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの“ゴラム”役で知られるアンディ・サーキスの存在がある。とはいえ、ここで『第9地区』のジェイソン・コープのように“素顔”と“覆面”を使い分ける実例を挙げるのであれば、サーキスの出演する『 キング・コング』(05)を持ち出すのが妥当だろう。 


 ピーター・ジャクソン監督によるこの作品で、サーキスはタイトル・ロールの巨大な類人猿をモーション・キャプチャーによって演じた。その演技に臨むにあたっては役作りの一環としてアフリカの野生保護区にまで自ら赴いてゴリラと触れ合いながら映画にふさわしい動きを体験的に獲得していったという。 


 そしてなおかつ、サーキスは本作で髑髏島へと向かう船の料理長役を“素顔”で演じてもいる。こちらは決してカメオ出演などではなく、セリフも存在感もしっかりとある役柄。さらには料理長として包丁さばきもしっかりと体得せねばならず、文字通り彼は本作で二つの顔を使い分けることとなった。役づくりへの入れ込みようは素顔をさらさなくても、さらしても、一向に陰ることがない。その点に関してこのサーキスのプロフェッショナリズムはさすがだ。 


 このように一つの作品内で“素顔”と“覆面”をさらす演出は、ある意味、監督側から観客への目配せであるとも言えるだろう。特殊技術によって映画は今やどんなビジョンでも描くことができるようになった。しかしその背後には見えないところで、生身の人間による膨大な汗が流れている。あえてそう言ったアナログ感や人間味といったものを前面に出すことで、映画の存在感や醸し出す空気はより一層リアルなものへと変わっていく。 


 1度目の鑑賞ではその映像世界に大いに圧倒されながらも、2度目、3度目ではそういった細部に意識を払いながら臨んでみることによって、我々もまた、大きな楽しみ方の境地を切り開くことができるのではないだろうか。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



今すぐ観る


作品情報を見る




『第9地区』 ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税 

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 

(c) 2009 District 9 Ltd. All Rights Reserved.

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 第9地区
  4. 『第9地区』完全CGでないから実現できた!?“エビ型”宇宙人のリアルな感情表現の秘密とは?