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『ゾディアック』フィンチャー史上最も「静」の作品ににじむ、表現者の信念

(c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『ゾディアック』フィンチャー史上最も「静」の作品ににじむ、表現者の信念

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複数のスタジオを渡り歩いて理想のキャストを実現



 フィンチャーは役者の使い方においても、慧眼を感じさせる監督だ。『ソーシャル・ネットワーク』(10)では、ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ルーニー・マーラ、アーミー・ハマーといったネクストブレイク俳優を積極的に起用。


 同作はジェシーの代表作となり、アンドリューは『アメイジング・スパイダーマン』(12)、ルーニーはフィンチャーとの再タッグ作『ドラゴン・タトゥーの女』(11)で世界的に知られるように。アーミーは巨匠クリント・イーストウッドの『J・エドガー』(11)へと出演し、『君の名前で僕を呼んで』(17)へと続くキャリアを築いた。


 『ゾディアック』においては、ジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニー・Jrと組んだ。今では全員がマーベル映画に出演している超売れっ子だが、当時はこの3人をメインに据えることにスタジオ側から難色を示され、フィンチャーはいくつものスタジオを渡り歩く羽目になったという。



『ゾディアック』(c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.


 言われてみれば、ギレンホールは『ブロークバック・マウンテン』(05)で高く評価されたとはいえ、製作費概算6,500万ドルの大作のメインを飾るにはまだまだ不安だったのかもしれない(『ブロークバック・マウンテン』の製作費は概算1,400万ドル)。ラファロは『エターナル・サンシャイン』(04)、『コラテラル』(04)で少しずつ知名度が上がってきた時期。


 ダウニー・Jrは知名度・演技力共に申し分のないキャリアだったが、度重なる薬物問題で複数回逮捕され、2003年に映画界への本格復帰を果たしたばかり。スタジオとしてもなかなかGOを出しづらい状況ではあった(実際『アイアンマン』のキャスティングも、ジョン・ファブロー監督が一歩も譲らなかったことから実現したという)。それでも、希望を曲げず、ギレンホール、ラファロ、ダウニー・Jrを見事出演させたフィンチャー監督の粘りと先見の明には驚かされる。



『ゾディアック』(c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.


 彼らは新聞社の風刺漫画家グレイスミス (ギレンホール)、敏腕新聞記者エイヴリー(ダウニー・Jr)、事件の担当刑事トースキー(ラファロ)といったゾディアック事件によって人生が壊されてゆく人々の10年間以上を演じ切り、フィンチャー監督の期待にしっかりと応えた。あえて抑揚をつけない作品でありながら観客が置いてけぼりにされないのは、3人の卓越した演技に負うところが大きい。


 結果的に、「長い」「暗い」「重い」「キャストが不安」といった懸念を跳ね除け、『ゾディアック』は全世界興行収入8,400万ドル超のヒットを記録。全米最大の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でも、いまだに89%の高評価を維持している。



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