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『ブラインドスポッティング』人種間の「盲点」に見る、アメリカの隠れた実情とは

(c)2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

『ブラインドスポッティング』人種間の「盲点」に見る、アメリカの隠れた実情とは

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※2019年9月記事掲載時の情報です。


『ブラインドスポッティング』あらすじ

オークランドが地元で黒人のコリン(ダヴィード・ディグス)は保護観察期間の残り3日間を無事に乗り切らなければならない。コリンと、幼馴染で問題児の白人マイルズ(ラファエル・カザル)の2人は引越し業者で働いている。ある日、帰宅中のコリンは突然車の前に現れた黒人男性が白人警官に背後から撃たれるのを目撃する…。これを切っ掛けに、2人はアイデンティティや、急激に高級化する生まれ育った地元の変化などの現実を突きつけられ、次第に2人の関係が試されることとなる。コリンは残り3日間耐えれば自由の身として新しい人生をやり直せるのだが、問題児マイルズの予期できぬ行動がそのチャンスを脅かす…。


Index


友情を隔てる、見えない壁の存在



 黒人に対する人種差別は、アメリカに根づく大きな課題だ。19世紀半ばの奴隷制廃止と、60年代中期の公民権法成立を経てもなお、同国内での差別の闇はいまだ消えることがない。映画は社会を映す鏡であるとは、よく言ったもので、近年は黒人差別をテーマに、様々な切り口の映画が登場している。


 スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』(18)では、黒人の警察官による、白人至上主義団体への潜入捜査を描き、アメコミ原作の『ブラックパンサー』(18)では、黒人ヒーローの視点を通じて、黒人社会のドメスティックな部分をまざまざと表出している。どちらもアカデミー賞作品賞にノミネートされるなど、きわめて評価の高い作品だ。


 サンダンス映画祭のオープニング作品として上映され、批評家筋から絶賛を博したカルロス・ロペス・エストラーダ監督の映画『ブラインドスポッティング』(18)は、白人と黒人とのブロマンスを描いたものだ。前アメリカ合衆国大統領のバラク・オバマは、『ROMA/ローマ』(18)『ブラックパンサー』『ブラック・クランズマン』などと並び、本作『ブラインドスポッティング』を2018年のベストムービーに選出。賞レースこそ逃したものの、昨今のどの作品よりもアメリカの実情をリアリスティックに描いている。


『ブラインドスポッティング』予告


 映画の舞台となるのは、サンフランシスコ湾に面した都市オークランド。サンフランシスコ、バークレーと並び、非常にリベラルな風土が特徴の都市だ。人種の混合率も高く、多様性に優れた街である。主人公は、そんな地元の黒人青年コリン(ダヴィード・ディグス)と、白人青年のマイルズ(ラファエル・カザル)。ある事件を起こして逮捕されたコリンは、刑期を終えて、指導監督期間も残り3日となっていた。早朝のランニングで目覚め、引越し業者での仕事を終え、門限である23時までには帰宅が必須だ。ルールを破れば指導期間が延長され、自由は遠のいてしまう。なるべく騒ぎは避けて、模範的な態度に努めなければならない。しかし、友人で幼なじみのマイルズは、粗暴な性格の問題児。彼の軽率な行動によって、コリンの状況はさらに悪化していく……。


 映画は、このふたりの関係性を軸に、人種間の“見えない壁”を捉えている。黒人のコリンは、白人の友人マイルズを、“ニガー”と呼ぶ。ニガーとは本来、ニグロを語源とする黒人への蔑称だが、近年では仲の良い黒人同士、または非黒人に対しても使う、友人同士の挨拶として用いられる機会が増えている。ニュアンス的には「よお、兄弟」といった感じか。



『ブラインドスポッティング』(c)2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED


 対してマイルズは、コリンのことを単に“ブロ”と呼ぶ。これはブラザーの略で、極めて慣用的なスラングだ。こちらも意味的には「よお、兄弟」であるが、言葉の本来の意味としてはニガーよりも軽いだろう。マイルズは、決してコリンのことをニガーとは呼ばない、いや、呼べないのである。コリンは肌の色に左右されず、単に友人としてニガーと呼ぶが、マイルズとしては友人に対する差別意識が邪魔をし、抗いのようなものが根づいてしまっている。


 ふたりは同じ環境、同じ境遇、同じ思想の下で育ってきたはずだ。そこに人種間の隔たりはないように見える。しかし、ふたりの間には確実に、見えない壁が築かれているのだ。本作が凄いのは、単なる黒人差別に終始するだけでなく、黒人コミュニティの中で育った白人の立場も活写していることだろう。



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