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『オデッセイ』新たなフロンティアをひとりで生き抜く、宇宙服を着たカウボーイの冒険物語

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『オデッセイ』新たなフロンティアをひとりで生き抜く、宇宙服を着たカウボーイの冒険物語

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アメリカにおける重要な行動指針、個人主義



 もう1点、『オデッセイ』をアメリカ映画たらしめる要素は個人主義である。生きるために必要な全てを、他人の助けを借りず、自分の力で得ること。目標をひとりでやり遂げること。アメリカ、特に西部開拓の時代にあって、個人主義は重要な思想であった。アメリカ文化研究の名著とされる、ロバート・N・ベラー『心の習慣』(みすず書房)では、アメリカの個人主義は、最初にイギリスからやってきた先人たちの精神に始まっていると述べられる。



『オデッセイ』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 「ジョン・ウィンスロップのように、富と安楽を棄てて小さな船で危険な『荒野への使い』に乗り出すものを多く輩出したピューリタンの精神は、独立独行でなくていったい何であったろうか? 彼らは神の召命を感じていたが、頼るべきは彼ら自身でなければならなかった」(ジョン・ウィンスロップは17世紀の政治家。イギリスから新大陸アメリカに渡って国を興した)


 個人主義は、フロンティア思想と同様、現在に至るまでアメリカにおける重要な行動指針となっている。『オデッセイ』の主人公マーク・ワトニーがアメリカ映画のヒーローであるのは、生き延びるためのさまざまなアイデアを自分自身で考え出し、たったひとりで実行し、膨大な知識をもとに地球への生還を目指す姿勢を持つためだ。水素燃料を加熱して水を作り、16進数を用いた地球との交信方法を考え出す。豊富な知識と驚くべき実行力で生き残った、まさに独立独行の英雄である。



『オデッセイ』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 さらに例を挙げれば、主人公が火星脱出の失敗時に負った傷を自分自身で治療する場面も重要だ。『ランボー』(82)や『ザ・シューター/極大射程』(07)、あるいは『ボーン・アルティメイタム』(07)といった作品にも登場する、傷口をみずから治療、縫合するシーンは、あらゆる危機を自分の力のみで切り抜ける、いかにも個人主義のヒーローらしい能力の高さを示すモチーフだ。彼らは真に独立独行のアメリカン・ヒーローであるため、怪我すら自分で直してしまうのである。



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