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『トゥルーライズ』シュワルツェネッガー&キャメロン、T2コンビが確立した「戦い」と「笑い」の黄金比

(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『トゥルーライズ』シュワルツェネッガー&キャメロン、T2コンビが確立した「戦い」と「笑い」の黄金比

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開始数分で観る者を笑顔にする「映画愛」



 内容に移る前に、1点よろしいだろうか。ここからは「シュワルツェネッガー」ではなく、「シュワちゃん」と記載させていただきたい。理由は簡単。その方が鑑賞時を思い出せてワクワクするからだ。早速脇道に逸れてしまい恐縮だが、ご容赦いただければ幸いだ。


 さて。そもそも本作の始まりは、シュワちゃんがフランスのコメディ『La Totale!』(91)を鑑賞したことから。同作をいたく気に入ったシュワちゃんは、旧知のキャメロン監督に連絡を取り、リメイク版の監督を打診。キャメロンも快諾したことから、企画が動き出した。


 その頃のキャメロンといえば、世界興行収入5億1,900万ドルの大ヒットをたたき出した『ターミネーター2』(91)の次回作に悩んでいた。『24人のビリー・ミリガン』の映画化企画が頓挫し、『スパイダーマン』の実写映画化も暗礁に乗り上げていた時期だ(キャメロンは、レオナルド・ディカプリオをピーター・パーカー役、シュワちゃんをドック・オク役に想定していたという)。業界最注目のヒットメイカーだったキャメロン監督ならではの苦労といえるが、そんなタイミングで旧友のシュワちゃんから受けたラブコールは、ある種の「救い」だったのかもしれない。


『ターミネーター2』予告


 というのも、『トゥルーライズ』には、幸福感にも似た「解放感」が随所に感じられるから。例えば冒頭、スイスの湖畔を臨む屋敷にハリーが潜入するシーン。湖の底から潜水服で浮上してきた彼が服を脱ぐと、その下はタキシード。頭に水鳥は付けていないが、完全に『007 ゴールドフィンガー』(64)である。その後も、流ちょうなフランス語やアラビア語を披露して会場に溶け込み、美女と情熱的なタンゴを踊り、スノーモービルやスキーに乗った警備兵とスピーディなチェイスを演じてみせる。


 この笑ってしまうほど素直なオマージュに、キャメロンのスパイ映画を作る喜びを、多くの人が感じたことだろう(ドーベルマン同士の頭をぶつけてKOするシュワちゃんならではのワザも楽しめる)。元々キャメロンは、「『スター・ウォーズ』(77)を観て仕事を辞めた」というほど、映画への情熱にあふれた生粋の映画ファン。そんな彼の創作者としての高揚感と映画愛が、本作には満ち満ちている。


 冒頭のシークエンスだけを観ても、そこに「『ターミネーター』シリーズや『エイリアン2』(86)の監督」といった仰々しさは、微塵も感じられない。それどころかキャメロンは、ヘリコプターの操縦士役として声の出演もこなし、「彼女は標的の膝に頭をうずめています、フゥー!」といったセリフをノリノリで演じている。



『トゥルーライズ』(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 『007』オマージュの他にも、ハリーが飼っている犬の名前が『グレムリン』(84)と同じギズモ、ハリーの上司スペンサー(チャールトン・ヘストン)はマーベル・コミックの人気キャラクター、ニック・フューリーをイメージしているなど、遊び心が満載。ハリーが妻の浮気を疑うシーンは、ヒッチコック的な影を利用した演出で笑いを誘う。


 誤解を恐れずに言えば、超A級キャストと監督、スタッフ陣が思いのままに作ったファンムービー的な面白さとワクワク感にあふれているのだ。この映画でやり切った結果、真面目な『タイタニック』(97)が生まれた――そんな邪推をしてみたくもなるほど、『トゥルーライズ』におけるキャメロンの演出は楽しそうで仕方がない。


 ちなみに、本作のプロダクション・デザインを担当したのは『007』シリーズの重鎮ピーター・ラモント、撮影は後に『タイタニック』でオスカーに輝くラッセル・カーペンター、音楽は『ターミネーター』シリーズに続いてブラッド・フィーデル。これらの豪華なメンバーが存分に遊びまくった結果、開始わずか3、4分で観る者を笑顔にしてしまう映画、それが『トゥルーライズ』なのだ。



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