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『ドリーム』傑作ヒューマンドラマを裏で支えた3人の女性とは

(c)2016Twentieth Century Fox

『ドリーム』傑作ヒューマンドラマを裏で支えた3人の女性とは

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※2017年10月記事掲載時の情報です。


『ドリーム』あらすじ

東西冷戦下、アメリカとソ連が熾烈な宇宙開発競争を繰り広げている1961年。ヴァージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究所では、優秀な頭脳を持つ黒人女性たちが“西計算グループ”に集い、計算手として働いていた。リーダー格のドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は管理職への昇進を希望しているが、上司ミッチェル(キルスティン・ダンスト)に「黒人グループには管理職を置かない」とすげなく却下されてしまう。技術部への転属が決まったメアリー(ジャネール・モネイ)はエンジニアを志しているが、黒人である自分には叶わぬ夢だと半ば諦めている。幼い頃から数学の天才少女と見なされてきたキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)は、黒人女性として初めてハリソン(ケビン・コスナー)率いる宇宙特別研究本部に配属されるが、オール白人男性である職場の雰囲気はとげとげしく、そのビルには有色人種用のトイレすらない。それでも、それぞれ家庭を持つ3人は公私共に毎日をひたむきに生き、国家の威信をかけたNASAのマーキュリー計画に貢献しようと奮闘していた。


1961年4月12日、ユーリ・ガガーリンを乗せたソ連のボストーク1号が、史上初めて有人で地球を一周する宇宙飛行を成功させた。ソ連に先を越されたNASAへの猛烈なプレッシャーが高まるなか、劣悪なオフィス環境にじっと耐え、ロケットの打ち上げに欠かせない複雑な計算や解析に取り組んでいたキャサリンは、その類い希な実力をハリソンに認められ、宇宙特別研究本部で中心的な役割を担うようになる。ドロシーは新たに導入されたIBMのコンピュータによるデータ処理の担当に指名された。メアリーも裁判所への誓願が実り、これまで白人専用だった学校で技術者養成プログラムを受けるチャンスを掴む。さらに夫に先立たれ、女手ひとつで3人の子を育ててきたキャサリンは、教会で出会ったジム・ジョンソン中佐(マハーシャラ・アリ)からの誠実なプロポーズを受け入れるのだった。


そして1962年2月20日、宇宙飛行士ジョン・グレンがアメリカ初の地球周回軌道飛行に挑む日がやってきた。ところがその歴史的偉業に全米の注目が集まるなか、打ち上げ直前に想定外のトラブルが発生。コンピュータには任せられないある重大な“計算”を託されたのは、すでに職務を終えて宇宙特別研究本部を離れていたキャサリンだった……。


Index


NASAの宇宙開発をめぐる“知られざる女性たち”の活躍



 スクリーンを通じて勢いの良い風が身体の芯をビュンと吹き抜けていった。世の中には、観ているだけで底知れぬ元気をもらえる映画があるが、本作から受け取る痛快なエネルギーと気持ち良さは格別だ。何よりもNASAの宇宙開発、性差、肌の色をめぐる逆境への挑戦という3つの壁に立ち向かう人たちが描かれている点がたまらない。そして各々の躍動はやがて一つになる。登場人物たちはそこで強く連帯し、エンジンから勢いよく炎を噴射させながら、まるでこの映画の存在そのものを空高く飛翔させていくかのよう。その光景を見上げる私たちも、人類の偉業に立ち会ったかのような臨場感を味わいつつ、そこで語られる“知られざる歴史”に大きく知的好奇心を掻き立てられることだろう。


 そう、これは“知られざる歴史”なのだ。60年代、ヴァージニア州のハンプトンにあるNASAのラングレー研究所には、“ヒューマン・コンピューター”という役割を担う女性たちの存在があった。“compute”には「計算する」という意味がある。当時、宇宙開発につきものの膨大かつ複雑な計算をこなすのはこの部署の女性たちの仕事だった。起用されたのはいずれもこの道を極めた数学者たちばかり。中にはアフリカ系アメリカ人たちも数多く在籍し、当初、白人職員とは異なる西側の建物で職務にあたった彼女たちは“ウェスト・コンピューティング・チーム”とも呼ばれた。



『ドリーム』(c)2016Twentieth Century Fox


 どれだけ優れていてもアフリカ系女性がなれる職業といえば「学校教師」が精一杯と思われていた時代、メインとなる3人のヒロインたちは逆境に立ち向かいながらも存分に才能の羽根を広げ、それぞれがNASAの宇宙開発に多大な貢献をもたらす存在となっていく――――。この彼女たちの生き様や功績そのものが、女性でありアフリカ系である人々がキャリアを築く上での大きな礎となったことは言うまでもなく、それが国家プロジェクトでもある宇宙事業に直接的に結びついていた事実は、米国史においても極めて重要なシンボル的意味合いを含んでいると言えるだろう。


 興味深いことに一般的な米国民は、この映画『ドリーム』で描かれる事実についてこれまで何も知らなかったという。それゆえ提示された内容に「こんなことがあったのか!」と熱く心を震わせ、人から人へと口コミの輪が広がり、本作は硬派なヒューマンドラマとしては極めて珍しい大ヒット、そしてアカデミー賞各部門へのノミネートへと繋がっていったのである。


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