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『真実』是枝監督が、最大の敵「演技」を描くとき――新たな家族劇が生まれる

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『真実』是枝監督が、最大の敵「演技」を描くとき――新たな家族劇が生まれる

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※2019年10月記事掲載時の情報です。


『真実』あらすじ

世界中にその名を知られる、国民的大女優ファビエンヌが、自伝本「真実」を出版。海外で脚本家として活躍している娘のリュミール、テレビ俳優として人気の娘婿、そのふたりの娘シャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、彼女の公私にわたるすべてを把握する長年の秘書─。“出版祝い”を口実に、ファビエンヌを取り巻く“家族”が集まるが、全員の気がかりはただ一つ。「いったい彼女は何を綴ったのか?」そしてこの自伝に綴られた<嘘>と、綴られなかった<真実>が、次第に母と娘の間に隠された、愛憎うず巻く心の影を露わにしていき―。


Index


是枝監督史上、最も「明るい」映画



嘘の世界に居場所を築いた大女優と、虚飾のない母性を求める娘。

すれ違う親子が選び取った“真実”は、苦くて甘い愛だった――。


 2018年、ある日本映画が世界を驚かせた。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した、是枝裕和監督作『万引き家族』だ。今村昌平監督作『うなぎ』(97)以来、21年ぶりの受賞という快挙を成し遂げたこの映画は、テーマ・演出・演技、またそれらのトータルバランスが絶賛され、審査員長の女優ケイト・ブランシェットに「審査員を務めた私たちが今後あの泣き方をしたら、安藤サクラの真似です」とまで言わしめた。


 近年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作は、2016年『わたしは、ダニエル・ブレイク』、2017年『ザ・スクエア 思いやりの聖域』、2018年『万引き家族』、2019年『パラサイト 半地下の家族』と、「貧困」が何らかのかかわりを持っている作品が多い。『万引き家族』でも「万引きで生計を立てる貧困層」が描かれたため、国内外で思わぬ論争を呼び起こした。様々な祝辞と活発な意見が吹き荒れるなか、当事者の是枝監督は次回作に向けて準備の真っ最中だった。それが、初の国際共同製作に挑んだ『真実』(19)だ。


『真実』予告


 主演は大女優カトリーヌ・ドヌーヴ。その娘役に是枝監督とも親交が深いジュリエット・ビノシュ。さらに、名優イーサン・ホークが監督のオファーを快諾。スタッフにおいては、フランスのアカデミー賞であるセザール賞の常連で『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)、『イントゥ・ザ・ワイルド』(07)も手掛けたエリック・ゴーティエが撮影監督を務め、録音はダルデンヌ兄弟監督作品で知られるジャン=ピエール・デュレが担当した。


 衣装は『8人の女たち』(02)から『2重螺旋の恋人』(17)までフランソワ・オゾン監督作品に参加してきたパスカリーヌ・シャヴァンヌ、音楽は『私はあなたの二グロではない』(16)のアレクセイ・アイギが名を連ねた。


 日本人が監督を務めた海外進出作品で、このクラスのキャスト・スタッフの布陣は極めて異例だろう。しかし、これだけの面子を揃えながら、『真実』には前のめりな“熱さ”がまるでない。心に溝ができてしまった母娘が共に過ごす「時間」そのものを穏やかに見つめた、実に奥ゆかしい作品に仕上がっている。そのうえで、従来の作風に対する新たな挑戦も感じられる。


 是枝監督の最新作と聞いて、『万引き家族』や『そして父になる』(13)、『三度目の殺人』(17)といった重厚な社会派作品を想像した観客は、本作の温かみを新鮮に思うだろう。『真実』は、これまでの是枝作品のエッセンスを十二分に感じさせる「らしい」映画でありつつも、監督自身が「自分の中でも最も明るい方に振った」と語るほど、優しさに満ちた、木漏れ日のような逸品だ。



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