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『真実』是枝監督が、最大の敵「演技」を描くとき――新たな家族劇が生まれる

(c)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

『真実』是枝監督が、最大の敵「演技」を描くとき――新たな家族劇が生まれる

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構想8年、キャスト・スタッフと一緒に脚本開発



 フランスの国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自伝本を出版することになった。ファビエンヌの娘で脚本家のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、その夫でテレビ俳優のハンク(イーサン・ホーク)は、娘シャルロット(クレモンティーヌ・グルニエ)と共にお祝いにやってくるが、『真実』と題された自伝本の内容を知ったリュミールは激怒する。というのも、そこに書かれていたファビエンヌの半生は、リュミールが記憶している事実とは全く違っていたからだ。母に愛されなかったトラウマと、幸せな親子関係がつづられた文面――崩壊の危機を迎えた母娘の関係は、どのような帰結を迎えるのか。


 『真実』の企画が動き出したのは、2011年のこと。「女優とは、演じるとは何か?」をテーマに対談した是枝監督とビノシュが意気投合。映画製作を誓い、少しずつアイデアのやり取りが始まった。


 是枝監督が考えついたのは、『クローク』という未完成の戯曲の映画化だった。戯曲は女優の楽屋を舞台にした会話劇だったが、大女優と女優になれなかった娘を中心に据えた、親子の物語に変換し、ビノシュとフランスを代表する大女優ドヌーヴをキャストに思い描いていたという。



『真実』(c)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA


 その後、『そして父になる』や『海街diary』(15)を経て、2016年にプロットをビノシュに送り、さらに翌年にはドヌーヴと対面。2度にわたって直接インタビューを行い、脚本に反映していった。ちなみに、ドヌーヴからは「この主人公は価値観がずいぶん古いから、せめて“ヌーヴェルヴァーグ”まで現代化が必要」「撮影場所は絶対パリ。郊外はイヤ」という、なんとも彼女らしい注文が入ったそうだ。


 そして、『万引き家族』のパルムドール受賞直後に是枝監督自らホークのもとに出向き、出演を取り付ける。是枝監督がホークを希望したのは、『ビフォア』シリーズ(95~13)をはじめとするホークとリチャード・リンクレイター監督のタッグ作にシンパシーを抱いていたから。言われてみれば確かに、是枝作品の「緩やかな時間の流れ」はリンクレイター監督にも通じる。ホークからは役の行動に対する疑問が投げかけられ、是枝監督はホークとのディスカッションを経て脚本を加筆していった。


 このように、出演者の意見を積極的に取り入れていくスタイルで、『真実』の物語は構築されていった。もちろん、日仏のプロデューサーやスタッフ陣からの指摘も消化し、文化的な面での齟齬が発生しないように気を配ったそう。監督・脚本・編集を自ら行う是枝監督ならではの柔軟な対応といえる。


 そしてまた、非常に興味深いのは、多くの意見を盛り込みながらも、紛れもない「是枝作品」になっているということ。役者陣の演技からは監督に対する信頼が感じられ、映像には監督の役者陣に向けた敬愛があふれている。両者の幸福な関係性が、スクリーンの中に流れているのだ。



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