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『ボーダー 二つの世界』踏み込めば戻れない――常識の向こう側から手招きする“異界”

(c)Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018

『ボーダー 二つの世界』踏み込めば戻れない――常識の向こう側から手招きする“異界”

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※2019年10月記事掲載時の情報です。


『ボーダー 二つの世界』あらすじ

税関職員のティーナは、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける特殊能力を持っていた。ある日、彼女は勤務中に奇妙な旅行者ヴォーレと出会う。ヴォーレを見て本能的に何かを感じたティーナは、後日、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供する。次第にヴォーレに惹かれていくティーナ。しかし、彼にはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった―。


Index


「現実に帰れない」ほど強烈な物語



美と醜が強烈に訴えかけ、脳幹を破壊する。観終えた後も、刺激臭が抜けることはない。

現実の一部が侵食されてしまうほど、毒素の強い物語だ。


 『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)の原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが原作・脚本を務めた映画『ボーダー 二つの世界』(18)は、第71回カンヌ国際映画祭のある視点部門で、『Girl/ガール』(18)や『永遠に僕のもの』(18)を退けてグランプリを獲得した話題作だ(ちなみに、パルムドールに輝いたのは『万引き家族』)。


 北欧映画特有の「静謐な美しさ」と「無機質な残虐性」に加え、吐き気をもよおすほどの「生々しさ」が何層にも塗り重ねられ、深い森に迷い込んだように抜け出すことができない。


 アメリカ最大の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では、10月10日現在97%と高得点を維持。ヴァラエティ誌は「ジャンルの枠組みを超越し、ロマンス、北欧ノワール、社会的リアリズム、ファンタジーを巧みにミックスさせた作品」、ウォール・ストリート・ジャーナルは「忘れられない場所にあなたを連れて行ってくれる」と、有力紙がこぞって強烈な世界観を評価している。


『ボーダー 二つの世界』予告


 原作・脚本が同じ『ぼくのエリ 200歳の少女』も愛してやまないギレルモ・デル・トロ監督は「強い詩。社会に見捨てられたものが人生において愛と怒りの間で選択を迫られる、大人のためのおとぎ話」と絶賛。本作は日本ではR18+指定を受けており、予告編などで作品の一端を目にして、早くも心をとらわれている方もいるだろう。


 ちなみに、スタジオにも注目していただきたい。『ボーダー 二つの世界』を配給したNEONは、『シンクロナイズドモンスター』(16)、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(17)、『REVENGE リベンジ』(17)、ナタリー・ポートマンが歌姫に扮した『Vox Lux(原題)』(18)、第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞した『Portrait of a Lady on Fire(英題)』(19)、同じくカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたポン・ジュノ監督最新作『パラサイト 半地下の家族』(19)など、エッジーな作品を数多く世に放ってきた。これらの作品群を見れば、本作がどのゾーンに属する映画なのか、自ずと推察できるだろう。


 ここでもう1つ目を引くのが、第91回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされている点。『バイス』(18)、『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(18)に並んでのノミネートとなり、スウェーデン・デンマーク製作映画としては非常に珍しいが、スタッフを見れば納得がいく。ヨーラン・ルンドストルム、パメラ・ゴールダマーは『ハリー・ポッターと死の秘宝』2部作(10~11)や『ゲーム・オブ・スローンズ』(11~19)などハリウッドで活躍する売れっ子たち。手練れの2人は、本作の主人公と相手役を鮮烈なビジュアルに仕立てた。



『ボーダー 二つの世界』(c)Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018


 映像、デザイン、テーマ、物語……多くの面で本作は、これまでの映画にはなかった独自の“色”を醸し出しつつ、デル・トロ監督が称賛したように『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)にも通じる「虐げられた弱者の物語」という現代性もカバーしている。ただの「残酷で美しい」おとぎ話とは、本質からして異なっているのだ。



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