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ふたりのサブリナ、ひとつのコミック【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.34】

ふたりのサブリナ、ひとつのコミック【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.34】

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再解釈された魔女の世界





 「サブリナ」がホームコメディ&学園コメディ仕立てであったのに対し、「サブリナ:ダーク・アドベンチャー」は本格的なダーク・ファンタジーだ。その一番大きな特徴は、魔女や魔界の描き方である。少なくともキーナン・シプカのサブリナは指先から光線を放って物を消したり出したりはしない。ここでの魔法と言えば呪文を唱え、標的を模した人形を傷つけて呪いをかけることだ。また、この世界観における魔界とは、クローゼットから行くことのできる異世界ではなく、中世の魔女狩りの際に考えられていたようなキリスト教に対する邪教のコミュニティであり、魔女と魔術師たちはサタンこと闇の主に仕え、闇の教会に属している。魔女は悪魔との契約(あるいは性的な交わり)によって力を得るという伝承を設定に採用しているので、世界観にも説得力がある。16歳を迎えたサブリナは闇の洗礼式によってサタンへの忠誠を誓い、契約を交わすよう半ば強いられるのだが、自分の人生を自分で選び、切り拓きたいという独立心の強い少女は、それまで魔界では当然のように考えられてきた儀式に抵抗する。ここから、サブリナの戦いが始まるのである。


 昼間は人間界の高校に通うが、こちらもまた男性優位主義の校長が支配し、粗暴なアメフト部員が闊歩するような学校なので、サブリナは親友たちとともに女子生徒が安心して過ごせるよう校内環境を改善するための同盟、WICCA (Women’s Intersectional Cultural and Creative Association)なるクラブを結成することに。ちなみにこのウィッカというのは実在する魔女宗教の名称でもあり、そこから拡大して現代における魔女術の通称として使われることもある用語である。女性同盟の略称に魔女宗教の名称が当てられているのは、サブリナが半分は人間の女性であり、半分は魔女であることと重なりそうだ。男たちが幅を利かせる学校と、サタンや男の魔術師への従属を強いられる魔界との両方でサブリナは奮闘する。


 サブリナの父親は偉大な魔術師であり、進歩的な考えのもとに魔界を改革してきた人物で、人間の女性と結ばれたことによりサブリナが誕生する。こういった背景からサブリナは、長らく隔絶されてきた魔界と人間界の間を、自分が橋渡しできるのではないかと考え、それを夢見るようになる。人間界に彼氏や親友を、魔界に家族や理解者を持つサブリナにとって、どちらかひとつの世界を選ぶことは難しい。ふたつの世界を繋ぎ合わせることは、彼女自身の人生のためでもあるのだ。しかし、理想を追う中でサブリナは魔界と人間界の軋轢の歴史や、自分の出生における真相、魔界やサタンの秘密を知ることになる……。


 全くスタイルの違うふたつの映像化作品。しかし基本は「魔女であることを隠しながらの高校生活」、これは揺るがない。ごく一部に対しては正体を明かすこともあるが、いずれにせよ世界観のコアは魔界と人間界の行き来、ギャップのおもしろさだろう。基本のプロットがわかりやすいからこそ、アレンジや解釈に幅が生まれることもある。主人公の前提やキャラクター同士の関係はそのままに、原作の要素がフォーマットとなることで、大好きな世界観が全く違う形で描かれるのも楽しい。なによりも、子どもの頃夢中で観てすっかり知っている気でいたサブリナの世界を、全く新しい形でもう一度観られて、初めて観る別物でありながらも、不思議と所々に懐かしさを感じられたのが幸せである。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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