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タイカ・ワイティティと仲間たちがおくるヴァンパイアの世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.39】

タイカ・ワイティティと仲間たちがおくるヴァンパイアの世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.39】

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ヴァンパイアなタイカ・ワイティティ ※注!ネタバレ含みます





※本章は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


 新米ニックが調子に乗って自分がヴァンパイアであることを吹聴した結果、家にヴァンパイア・ハンターがやってきてピーターを死なせてしまったり、そのことでニックが皆から糾弾され家を追い出されるなど、仲間内を映したドキュメンタリーにありがちな調子で喧嘩や決別が起こるが、最後にはやはりスチューによって全てが丸く収まる。一行はついに満月により狼男たちが変身しようとしているところに遭遇し、不幸にもスチューが襲われてしまうが、ヴァンパイアたちも狼男たちに苦戦して、助けるのには間に合わなかった。親友が無残に食い殺されるのを目の当たりにしたニックは、仲間たちと悲しみを分かち合う。シェアハウスには今まで以上に暗く陰鬱な日々が続くが、しかしそこへ実は自身も狼男となって生き延びていたスチューが、彼を新たに仲間に迎え入れた狼男たちを連れて現れた。犬猿の仲だったヴァンパイアと狼男たちは、今や共通の仲間であるスチューを通して、これまでの互いへの偏見を捨てて距離を縮める。怪物たちがひとりの人間を通して仲良くなるわけだが、最後まで微笑ましい、とてもかわいらしいヴァンパイア映画だと思う。


 どのキャラクターもおもしろいけれど、やはりお気に入りはワイティティ演じるヴィアゴ。このロマンチストで神経質なシェアハウスのまとめ役は18世紀から生きており、ニュージーランドへは20世紀前半に恋をした女性カトリーヌを追ってやってきたが、船を手配した召使いの手違いによって到着が遅れ、その間に彼女には別の相手ができてしまう。ヴィアゴはスチューによってもたらされたパソコンとインターネットを使って、現在カトリーヌが暮らす養護施設を見つけるが、なかなか一歩踏み出せずにいた。


 吸血の際も演出に凝り、獲物をディナーに招いてからゆっくり取り掛かるが、おしゃべりしながらお気に入りのソファを汚さないように新聞紙を敷くのを忘れない。そこまで几帳面にやっておきながら、いざ獲物の首元に食らいつくと、うっかり大動脈に噛み付いてしまうという抜け方も最高だ。ワイティティの独特の声色も手伝ってコミカルで魅力的なキャラクターとなっている。またひとりお気に入りのヴァンパイアが増えるとともに、俳優として、フィルムメーカーとしてのタイカ・ワイティティにも夢中だ。『ジョジョ・ラビット』も素晴らしかったけれど、日本ではディズニーデラックスで配信中の『スター・ウォーズ』のドラマシリーズ、『マンダロリアン』シーズン1の最終回がワイティティ監督回なので、今はそれがとても待ち遠しい。また本作は同じタイトルでアメリカ版TVシリーズ化もされており、ワイティティやクレメントだけでなく、使い魔ジャッキー役のジャッキー・ヴァン・ビークの監督回もあり、そちらのシリーズは今後も続くようだ。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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