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『フラバー』はロボットもおもしろい【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.40】

『フラバー』はロボットもおもしろい【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.40】

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実はロボットの物語でもある





 黄色い丸いボディの小さな秘書ロボット、ウィーボは間違いなくフラバーを食ってしまうほどのキャラクターと言える。わかりやすい顔のようなものはないが、そこは『スター・ウォーズ』のR2-D2などと同様、問題ではないだろう。カメラでもあるひとつ目と、点滅するランプしかついていなくとも、ウィーボは実に表情豊かだ。宙に浮いた体を揺らす挙動ももちろんだが、なにより『リトル・マーメイド』の人魚姫アリエル役でお馴染みのジョディ・ベンソンの声によって個性が与えられている。ロボットにしては個性的過ぎるくらいで、化学の教授であるフィリップがどうしてこれを作り出せたのかが謎である(一応本人によれば偶然奇跡的に作り出せたらしい)。またウィーボはフィリップのことが好きで、彼とサラの仲に嫉妬さえしている。フィリップの結婚式の予定をスケジュールから意図的に消してしまったりするくらい。そんな感情を持つロボットを作り出している時点で十分すごいのではと言いたくなるが(ちなみにウィーボが宙に浮くのはフラバーの力とはなんの関係もない)、うっかり屋のフィリップのそばにこんなロボットがいるというのは、彼が実はすごいのだというサインになっている、とでも受け取っておこう。


 ウィーボに加え、フィリップの家にはウィーバーというロボットもいる。こちらは作業用のアームを備えたタイプで、比較的ヒト型に近いもののだいぶ簡素な作りで顔がなく、ボディなども最低限の造形。それでもやはりボディやアームの挙動、言葉ではないが低い電子音によって愛嬌が感じられる。ちょうど『アイアンマン』でトニー・スタークのアシスタントを務めたロボットアームを思い出すようなキャラクターだ。ウィーボと違って視覚的な機能が無さそうだが、テレビを観る描写があったりして可笑しい。リモコンでテレビを消した後、両腕を伸ばして「そろそろ寝るか」と言わんばかりの伸びまでする。ウィーボもウィーバーも映画公開当時にマクドナルドの玩具になっているが、確かに玩具向けの造形だ。しかもそこには肝心のフラバー自体がラインナップされていないのだから驚く(せいぜいフラバーのタンクだけ)。


 教授を好きで仕方がないウィーボには秘密があった。彼女はコンピューター上で自分の人間としての姿を密かに設定していたのだ。アバターを完成させたウィーボは作った女性の姿をホロプロジェクターによって実空間に投影することで(もうなんでもありだ)、フィリップに人として愛されようとしていた。『her/世界でひとつの彼女』や『ブレードランナー2049』などで人工知能が人間の代役を通して主人公と接しようとするくだりがあったが、人間の姿や体を得ることは常に恋するロボットたちの夢であり、その方法を模索するところがまた健気でもある。またそんなふうに自分が作ったロボットから愛されたロビン・ウィリアムズは本作の2年後、『アンドリューNDR114』にて人間と結ばれるために人間になろうとするロボットを演じることになる。


 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』に登場するドロイド、L3-37の頭部はどこかウィーボに似ているところがあるが、オーナーである人間に好意を抱いている女性プログラムのドロイドであることも同じだ。ランド・カルリジアンに想いを寄せる彼女はいつかランドに振り向いてほしいと願っていたが、彼女の場合は有機生命体の姿など拝借する気はないようだった。ドロイドとしての誇りを持つL3は、そのままの自分を愛されたかったに違いない。現代版の恋するロボットを、実に『スター・ウォーズ』らしいやり方で描いているところがお気に入りだった。最終的にL3は戦闘によって破壊されてしまうが、それはウィーボも同じだった。



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