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『スター・ ウォーズ』パロディの傑作『スペースボール』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.41】

『スター・ ウォーズ』パロディの傑作『スペースボール』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.41】

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パロディが教えてくれること





 笑いどころは正直言ってベタだし、SWパロディとしては定番中の定番である。しかし、アレンジされたキャラクターがおもしろく、ディテールが凝っているので観ていて楽しい。定番パロディだからこそ、そこにはプレーンで原点的なSWのイメージがあるのではないかとも思う。プリクエル三部作世代のぼくにとって、オリジナル三部作が元々どんな印象でどのように受け入れられてきたのかというのは興味深いところで、同時代のパロディやフォロワー作品(たとえば日本における『宇宙からのメッセージ』など)はその手がかりになる。そうしてSWらしさを追求したり、物語や世界観を要約しているパロディは、ときに入門の役割を果たす場合もある。


 白状すると、ぼくがSWのおおまかなストーリーを知ったのも「クレヨンしんちゃん」におけるSWパロディ作「クレヨンウォーズ」だった。三部作本編をしっかり観るにはまだ少し早い幼少期、しんちゃんの世界観を通して見せられたSWはわりとすんなり入ってきたし、辛うじて知っていたダース・ヴェイダーやドロイドたちといったキャラクターを照らし合わせてなんとなくお話を理解していたように覚えている。『スペースボール』は『新たなる希望』をベースに若干『帝国の逆襲』のエレメントを加えたような感じだが、「クレヨンウォーズ」はオリジナル三部作全てを網羅して簡潔にまとめているところもいい。ただ、あまりにもこれが頭にあったために初めてちゃんと『新たなる希望』を観たときに、イウォーク族や皇帝が登場しないまま終わったので面食らったものだった(「クレヨンウォーズ」ではそれら全てが登場する)。いずれにせよ、ぼくにとってSWへの入り口のひとつになっていたと思う。


 『スペースボール』はSW以外のSF映画からの引用もあるが、中でも印象的なのは『エイリアン』と『猿の惑星』で、特に前者はぼくにとって本家をちゃんと観るより前に強く印象付けられたシーンだ。冒険を終えたローン・スターとバーフは宇宙空間に浮かぶダイナーに立ち寄るが(ちなみにこのダイナーの駐車場にはミレニアム・ファルコンが停まっている)、そこで食事していたひとりの男が仲間たちとの談笑中に苦しがり出し、しまいにはお腹から小さな生き物が飛び出してくる。彼こそは『エイリアン』で同様の被害に遭う役を演じたジョン・ハート本人で、本家で言うところのチェストバスターに腹を食い破られた彼は「またか」とうんざりして見せる。本人がやるパロディというのも豪華だが、これを先に観て印象に残っていたので、後年本家のこのシーンを観たときには「これか」と思うくらいだった。別にそのせいで本家の印象が損なわれるというようなことはないが、パロディとはそういう予備知識を与えてくれるところもあると思う。


 パロディが多く作られるのは、それだけオリジナルが絶対的な存在感を持っているということ。『スペースボール』や『クレヨンウォーズ』、あるいは『親指ウォーズ』が楽しいのも、SWの前提がしっかりしているからだろう。SWは元来パロディの歴史が長く、またそれらに対して比較的寛容なスタンスを取ってきたことは、2011年に最初にブルーレイボックスが出た際、ボーナスディスクにわざわざパロディ傑作選が収録されていたことからもわかる。『スペースボール』をはじめ『ファンボーイズ』や『クラークス』といった映画のワンシーン、「サタデー・ナイト・ライブ」のコントから「シンプソンズ」などのアニメ、ドラマ内の会話で言及された例までおさめたかなりボリュームのある内容で、本家とパロディのそんな関係は見ていて微笑ましいというか、温かみさえ感じられる。


 それにしてもギャグのつもりで「第11章」としている『スペースボール』。いつのまにかSW自体も本編エピソードが9作になり、2本のスピンオフ映画も合わせればちょうど11作になるのだからすごい話だ。そしてSWが続けばパロディも続くだろう。ということでこれからもおもしろいパロディが作られ、もしかしたらそれを通してSWの世界を知るひとがいればいいなと思う。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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