1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 作り手の“自我”が、恋の障害になるのが面白い。行定勲監督『劇場』【Director's Interview Vol.69】
作り手の“自我”が、恋の障害になるのが面白い。行定勲監督『劇場』【Director's Interview Vol.69】

作り手の“自我”が、恋の障害になるのが面白い。行定勲監督『劇場』【Director's Interview Vol.69】

PAGES


観た人が「自分の話」と言ってくる



Q:ものづくりの苦しみや、本当の意味での作り手の“心根”ですよね。


行定:今回のコロナもそうだけど、エンタメや芸術というのは最初に社会から切り離されるもの。いま、それが露呈してしまっていますよね。すぐに壊れてしまうような脆さがあると思うんです。


ただその一方で、芸術やエンターテインメントに支えられ、救われた人も絶対にいると思う。もちろん、究極的には僕らは自分のためにものを作ってるんだけど、それが人のためになるなら大手を振って頑張ろうって思える。


なんだけど、今回はその脆さを支えてくれてる存在――沙希がいるありがたみや大切さを分からない男をやろうと(笑)。それがリアルさに繋がってるんじゃないかな。


Q:ああ、なるほど! ありがたみに気づけなかった「過去の自分」を永田に投影しつつ、大切さに気づいた今の自分の視点で観るからこそ、こんなに感情が持っていかれるんですね。確かに、観ているうちに当時がフラッシュバックして、「なんて自分勝手だったんだろう」と後悔が押し寄せてきました。


行定:そうなんです。ふがいなさというかね。


たぶんあなたが「ああ……」ってなったのは、その当時は見えない社会と闘っていたとは思うんだけど、「あのときいちばん大切にしなきゃいけなかったのは、この人だったんじゃないの?」って思っちゃったからじゃないかな(笑)。




Q:うあー……。まさにそうです。つらい……。


行定:(笑)。そうやって、見る人によって差があるのは面白いと思いますけどね。本作を観てくれた作り手の人たちはみんな「痛くて感想も言えない。自分の話だ」って言ってますよ(笑)。全然そんな風に見えない人たちまでもそう言ってるから、すごいなって。


永田って、演劇人はおろかクリント・イーストウッドとかディズニーに対してまで怒ってるし、闘ってるんですよ。滅茶苦茶やで!って(笑)。


Q:でも、作る側の人間ってそういうところありますよね。自分以外みんなライバルっていうか、そう思わないといけない自負というか……。そのセリフが出るシーン、舞台がザ・スズナリの前あたりだと思うんですが、自分も同じこと言ってたなぁ……となりました。


行定:永田が沙希に対して「なんでそんな分かったこと言うの?」って言うところですね。でも「じゃあ何も言わない」って言われると「ごめん」って謝る。大概そうです。「感想は言って。悪かった……」って(笑)。そういう奴らだらけですからね。


でも、作る側じゃなくても、こういう経験はきっといっぱいあると思う。同期が出世して自分だけ遅れてて、それをカミさんに当たっちゃって、「いつかは認められるよ」って言ってくれたのに「誰が認めてくれるんだよ!」ってなっちゃうのとおんなじ。


「その結果が今出てんだよ!」って、でも奥さんと子どもがいるから会社は辞められない。「私たちが足手まといって言うの? じゃあ別れましょう。あなた独りで頑張ればいいじゃない」って言って離婚したカップルを僕は知ってますから。


そう言われて初めて、「いや違うんだ、俺はお前のために出世したかったんだよ」ってやっとわかる。「いまの生活で充分」って奥さんは言ってるのにね。これは、そんな人間の話なんです。


Q:そうですよね。「大切な存在に気づけなかった痛み」は、きっと誰しもが抱えている。


行定:そう。だからこそ、社会で生きている人たちにも『劇場』を観てほしいなって思いますね。



『劇場』を今すぐ予約する↓




今すぐ観る






監督:行定勲

1968年生まれ・熊本県出身。2000年長編映画発案特作品『ひまわり』で釜山国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、演出力のある新鋭として期待を集め、2001年『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞に輝き、一躍脚光を浴びる。2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』を公開、興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』(05)、『春の雪』(05)、『クローズド・ノート』(07)、『今度は愛妻家』(10)、『パレード』(10/第60回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』(14)、日中合同作品『真夜中の五分前』(14)、『ピンクとグレー』(16)、故郷熊本を舞台に撮影した『うつくしいひと』(16)、日活ロマンポルノリブート『ジムノペティに乱れる』(16)、『うつくしいひと、サバ?』(17)、『ナラタージュ』(17)など。2018年『リバーズ・エッジ』が第68回ベルリン国際映画祭パノラマ部門オープニング作品として公開され、同映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞。また映画だけでなく、舞台「趣味の部屋」(13、15)、「ブエノスアイレス午前零時」(14)、「タンゴ・冬の終わりに」(15)などの舞台演出も手掛け、その功績が認められ2016年毎日芸術賞 演劇部門寄託賞の第18回千田是也賞を受賞。




取材・文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema






『劇場』 

2020年7月17日(金) 全国公開/配信

配給:吉本興業

 (C) 2020「劇場」製作委員会

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 作り手の“自我”が、恋の障害になるのが面白い。行定勲監督『劇場』【Director's Interview Vol.69】