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【ミニシアター再訪】第16回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その5 シャンテで大ヒット『ベルリン・天使の詩』

【ミニシアター再訪】第16回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その5 シャンテで大ヒット『ベルリン・天使の詩』

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約8か月の大ロングラン



 この作品の文化的な価値を感じさせる記事もある。文芸誌『新潮』の6月号には、新聞広告にもコメントを寄せていた浅田彰と作家、島田雅彦の対談が掲載されている。80年代を代表する若き文化人たちの知性のぶつかりあいともいうべき内容で、二段組みで20ページという長い対談だ。タイトルは「廃墟の光――『ベルリン・天使の詩』をめぐって」。 


 島田「今日、この映画を観て、音というのがいかにヴィジュアルな喚起力を持っているか、を再確認しました。(中略)頭や目で理解するだけではなく、五感全てで感じるように仕向けられているんです。(中略)〔そして、ヴェンダース・ベルリンの空間に〕迷い込んでしまったら、あれはどこだったのかはどうでもよくなって、観客は夢遊していたのか、記憶喪失になっていたということでしょう」


 浅田「一種の光であり、いま強調されたみたいに音ですね。ある音調だけが、耳の奥に響き続ける。実際、語られる言葉も大抵は詩みたいなもので、日常会話とはかけ離れているでしょう。だから、この映画は一種のポエジーであり音楽であり夢であるという感じがするんだな」 


 こうした記事はほんの一例だが、当時、この作品はさまざまなメディアで取り上げられていた。そして、公開から約3カ月半が経過した8月11日、『朝日新聞』夕刊には「『ベルリン・天使の詩』、単館ロードショーで新記録」との見出しがついた記事が出た。 


 「『ベルリン……』は公開103日目の8月3日で動員総数9万5476人、興行収入1億2867万円余を記録した」 


 私が劇場に足を運んだのもこの頃だが、封切りからかなり時間がたっているのに、劇場がおそろしく混んでいて本当に驚いた。結局、席にすわることができず、通路に座って見た。 


 「本当は消防署には叱られますけど、この頃、226席の倍近いお客さんが入っていたように思いますね」と高橋専務は当時を振り返る。 


 「本当は階段にすわるのも消防法では禁じられていますが、仕方がないので階段にすわっていただきました。とにかく、あの熱気はすごかったです。シャンテの歴史の中でも特筆すべき大ヒットとなりました」 


 最終的にはシャンテで30週間のロングランとなったが、これに関しては『読売新聞』(10月12日夕刊)に記事が出ている。タイトルは「映画『ベルリン・天使の詩』が単館で入場者14万人を記録」。 


 「東京・日比谷の映画館シャンテシネ2で(公開されているこの作品が)去る二日で入場者十四万人を超えた。普通、公開から日がたつにつれて客が少なくなるのに一向に客足が落ちない。ローマで八か月、ニューヨーク五か月(続映中)、ロンドン三か月と世界でロングヒットしている映画。(中略)(確かに)マスコミの批評は良かった」


 「しかし、これだけ永続して客が入ったのは、見た人の口コミによる評判が大きな支えとなったからだろうし、シャンテシネ2という新しい日比谷映画街のおしゃれな映画館で上映されたのも理由のひとつかもしれない。映画館、配給会社、観客、三者が映画を大切に扱ったのが、この新記録をもたらした」   


 いま、考え直しても30週連続上映という数字はすごいが、高橋専務によれば、本当はもう少し長く上映できる可能性もあったようだ。 


 「たぶん、次の作品があったので、やめたんじゃないかな」 



◉アーティストの横尾忠則も寄稿(右=パンフレットより)。いまは亡き『広告批評』編集長の島森路子も88年のベストに選んだ(『月刊イメージフォーラム』89年3月号)。映画外の反響も大きかった。




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