ジャームッシュ人気
フランス映画社は他にも、映画ファンの間で知られるようになる監督たちの初期の代表作を配給している。アメリカのジム・ジャームッシュもそうした監督のひとりで、80年代半ばにスバル座で『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)や『ダウン・バイ・ロー』(86)を成功させた後、シャンテで彼の新作を次々に上映してきた。高橋専務は振り返る。
「彼の作品には固定ファンがついていましたね。スバル座での『ストレンジャー・ザン・パラダイス』はなんともいえない作品でした。いい映画という表現は違うかもしれませんが、とにかく、新鮮さがありました。シャンテで初めて上映したのは『ミステリー・トレイン』(89)ですね。他にも『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)や『デッドマン』(95)なども上映していて、お客様も入りました。『デッドマン』の時は監督とジョニー・デップの来日会見も話題になりましたね」
この会見(95年、帝国ホテル)には私も行ったが、初来日のデップは、まだ本当に若かった。近年の会見ではサービス精神を発揮しているデップだが、この時は言葉が少なく、タバコをやたらと吸っていた(つっぱっていた?)。そんな無口なデップのかわりに饒舌なイメージとはほど遠かった監督がひとりで喋っていた。いま思えば控えめな宣伝費のミニシアター公開のために(監督はともかく)ハリウッドの人気スターが来日することは珍しかったので、シャンテ公開作の中でも特に忘れがたい会見になっている。
当時、ジャームッシュ作品は次々にシャンテで上映され、興行成績も好調だった。89年12月から13週間上映の『ミステリー・トレイン』はシャンテの歴代興行14位で興収8400万円。80年代以降、日本の会社が海外の映画作りに積極的に投資するようになったが、この作品は日本のビクターが投資したことが話題になり、永瀬正敏や工藤夕貴など日本の俳優も出演。エルヴィス・プレスリーゆかりのメンフィスめぐりを描いた3話のオムニバスで、音楽好きで知られるジャームッシュらしい企画だ。
92年4月25日から21週上映の『ナイト・オン・ザ・プラネット』は歴代4位で興収1億4500万円。ニューヨークやパリなど5つの都市のタクシーの運転手の日常をジャームッシュらしいひょうひょうとしたユーモアで見せてくれる。トム・ウェイツの音楽のねじれた感覚もいい。
95年9月14日から14週上映の『デッドマン』は歴代15位で興収8400万円。旅人(ジョニー・デップ)の死への船出が詩的なタッチで描写されたモノクロ作品で、ニール・ヤングがインスト音楽を担当。
近年のジャームッシュ作品は別の会社の配給だが、2013年12月に上映されたヴァンパイア映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』(13、ティルダ・スウィントン主演)もシャンテでの公開。まさに“ジャームッシュ劇場”となっている。
◉ジム・ジャームッシュといえばシャンテ。『デッドマン』、『ゴースト・ドッグ』、『ナイト・オン・ザ・プラネット』のポストカード。