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【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

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 90年代にシャンテで力を発揮したのは英国人がからんだ作品群。17年にノーベル賞受賞の英国在住の作家、カズオ・イシグロの代表作を映画化した『日の名残り』(93)ではふたりの英国の演技派たちが名演を見せた。


 イギリスの監督がイタリアの小さな島を舞台に撮った『イル・ポスティーノ』(94)はその風景の美しさが話題を呼んだ。


 あっと驚く、おじさんストリップが全国の爆笑と感動を誘ったのがイギリスの小品『フル・モンティ』(97)。その後、この作品はブロードウェイでミュージカル化され、日本の舞台でも上演された。


 この3本は歴代の興行成績ベストテン(2014年当時)にも顔を出すほど大ヒットを記録。シャンテの発展に貢献している。


※以下記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。


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カズオ・イシグロ文学の映画化



 メジャー系洋画会社の持ち込み作品が、その後もシャンテシネ(現TOHOシネマズシャンテ)で上映されていくが、アンソニー・ホプキンス主演の『日の名残り』(93)はソニー・ピクチャーズからの持ち込み作品だった。 


 シャンテの副支配人だった高橋昌治東宝専務取締役(取材時)はこの作品についてこう語った。 


 「大手の配給会社の従来のやり方では興行的にむずかしそうな映画もありました。『日の名残り』もそうした一本で、拡大公開系の大きな劇場には出にくい作品だったはずです。監督はジェームズ・アイヴォリーで、海外に住む日系作家が賞をとった原作の映画化です」 


 原作者のカズオ・イシグロは英国在住の日系人作家で、この小説で英国の権威ある文学賞、ブッカー賞を受賞。日本でも映画公開前から原作小説が静かな人気を呼び、映画化作品へも期待が高まっていた。シャンテでは1994年3月19日から17週間に渡って上映され、歴代興行の第6位(1億1700万円)につけている。 


 この年のアカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞(アンソニー・ホプキンス)、主演女優賞(エマ・トンプソン)等、8部門の候補になったこともヒットを支える要因になったのだろう。 


 主人公は英国の貴族の屋敷に勤める執事のスティーヴンスで、完璧な執事であろうとする彼は自分の感情を抑えて主に仕える。そのため、その屋敷の女中頭、ミス・ケントンに対する自分の愛情にも気づかない。そんなスティーヴンスに失望したケントンは好きでもない別の男性と結婚するため、屋敷を出てしまう。 


 そして、20年後、スティーヴンスは彼女との再会の旅に出る。 


 執事という職業は英国特有のものだが、そこで綴られる人生の喪失感というテーマは普遍的で、特に年齢を重ねた観客にはグサリと胸につきささる内容だ。また、ナチスの政策を支持して、やがては失脚していくスティーヴンスの主を通じて、歴史に翻弄される人間の姿も見ることができる(主に危機が迫っていても主人公はただ見守ることしかできないが)。「品格」や「忠誠心」といった今の時代からは失われつつある価値観が浮かび上がる文学的な作品だ。 


 イシグロの原作(日本での初版は中央公論刊、土屋政雄訳)は淡々とした文章の中に詩情がにじむが、映画版は主演の男優と女優の個性の強さもあってか、原作以上に厳しい男女の心理的な葛藤が登場する。公開時は自分の感情を隠さないケントンに共感しながら見たが、年を重ねた後に再見すると、影のように生きながらも仕事への誇りを貫こうとするスティーヴンスの心情もよく分かる。 


 こういう作品に出会うと、映画は一生ものの体験だな、と思う。年を経ることで、若い時とは違った解釈ができて、さらに作品の余韻も深まる。 


 ジェームズ・アイヴォリーは『眺めのいい部屋』(86、俳優座シネマテンとパルコ・スペース・パート3で上映)や『モーリス』(87、シネスイッチ銀座で上映)も手がけていて、どちらも大ヒットを記録。ミニシアターが育てた人気監督のひとりである。 


 「アイヴォリーの映画としては『眺めのいい部屋』もよかったですね。公開されたのはシャンテのオープン前ですが、こういう作品もやってみたかったです。他にもパーシー・アドロン監督の『バグダッド・カフェ』(87)などもシャンテで上映してみたかったです」 


 高橋専務はそう語る。見る側だけではなく、送り手の強い思いをかきたてる作品が当時のミニシアターでは次々に上映されていたということだろう。 


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