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【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

【ミニシアター再訪】第19回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その8 シャンテ傑作選3 英国の新しい魅力

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普通の映画とアートの中間



 87年にスタートしたシャンテは当初は2館だったが、95年3月には192席のシネ3が加わる。それまでTBSラジオのスタジオがあり、地域FMを流していたが、それが撤退することになって3館目の登場となったが、当時と現在の洋画を取り巻く状況の違いについて高橋専務はこう言う。 


 「90年代までは洋画の興行がよかったので、ひとつでもたくさんの劇場がほしいという動きがあり、シャンテも3館となりました。でも、近年は洋画があの頃より不振となり寂しいですね。確かに今もおもしろい・良い作品はありますが、大作になればなるほど、ワンパターンになっているような気もします。また、小粒でいいものもあるけど、そういう作品は日本に入ってこなくなっているのかもしれません」 


 シャンテの歴代興行では圧倒的に洋画が強く、21位(興行成績7300万円)の矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』(01)が邦画では最高の成績となっている。こちらは01年9月15日から13週の興行だった。 


 これまでアメリカのインディペンデント映画や英国映画、アジア映画、さらにフランス、イタリア、ドイツや北欧やギリシャやフィンランドまで、世界の映画地図をカバーするプログラムを組んできたシャンテだが、いい映画を発見するためのルールはあるのだろうか?  


 「とにかく、勘しかないです。感性が大事ですね」 


 高橋専務はそう答えた。 


 「だから、自分の感性がお客さんの感性とずれたら、もうおしまいです。ロードショー公開の大きな作品であれば、監督や俳優、映画の中身などで判断できます。ミニシアター系でもたとえば、タヴィアーニ兄弟の作品だと、前がこれだけ入ったから、こっちもこれだけ入るかもしれない、という読みが成立していきます」


 「しかし、ミニシアターの場合はそれだけでは成り立たずに、一から売り直す必要がありました。劇場側や配給会社にも、これを売ろうという気がないと、うまくいかないと思います。自分だけの感性ではなく、配給会社に同じような感性を持っている人がいれば、その人の感性に乗って決める場合もあります。また、配給会社に勢いがあると、それが決め手のひとつになることもあります。いろいろと総合的に見て上映作品を判断していきます」 


 シャンテの副支配人を務めた後、渋谷のロードショー館、渋谷シネタワーの支配人を経験した高橋専務だが、銀座と渋谷の違いについてはこう語る。 


 「銀座は一般のロードショー劇場が多く、お客様と劇場の距離があくまでもビジネスとして成り立っているわけですが、渋谷の場合、シネマライズやユーロスペースなどミニシアターもかなりあったので、お客さまとの距離がもっと近く感じられました。銀座でもシャンテなどにはそういうところがあって、劇場にお客様がついているという感覚があります。また、銀座の場合、一般のロードショー作品とアートの中間くらいの感覚のものをミニシアターで上映していました。渋谷はもっとアートに徹した作品が多かったです」 


 運営する側にとって、ミニシアターの醍醐味はどんなところにあるのか? 


 「それはお客様に優れた映像文化の場を用意できているという歓びですね。すべての人が満足するのではないかもしれませんが、多くの方にそう思ってもらえる場を提供できて、作品が心の中に残っていくわけです。お客様からその映画を『見てよかった』という声が聞こえることもあるし、『よく分からなかった』と言われれば、それでもいいと思います」 


 優れた作品を観客に届けること。そこにミニシアター運営の手ごたえがあったのだろう。 


 「実はフランス映画社の社長だった柴田駿さんがBOWシリーズを上映している頃、スクリーンの1番前に立って、お客様をばーと見ていたことがありました。そこで『高橋さん、いつものお客さん、今日も来ていますよ』とか言われるわけです。お客様のいる光景を脳にやきつけているような印象で、改めてすごい方だな、と思ったものです。そんな配給側とお客様たちの双方の熱意を劇場で感じました」 


 『ベルリン・天使の詩』が上映された80年代はひとつのミニシアターでの独占興行が多く、その結果、1館で1億円以上の収益を上げるヒット作も生まれていたが、21世紀に入ってからいくつかのミニシアターが手を組んで公開する興行形態が増えた。その結果、ひとつの作品に対する1館あたりのアベレージの収益が減った。シャンテの歴代興行成績の上位も80年代と90年代の作品が中心になっている(ベストテン内には9位に『英国王のスピーチ』(10)、10位に『チョコレート』(01)と21世紀の作品がかろうじて2本入っている)。 


 そんな時代の中で、高橋専務はこんな未来への言葉をシャンテというミニシアターに託した。 


 「ミニシアターはひとつの時代を築きましたが、今は第二の時代に入ってきているのかもしれません。とにかく、シャンテに関しては、シャンテ風の作品をやり続けて、それを積み重ねて文化にしてほしいと考えています」 



(次回は『ニューシネマ・パラダイス』の大ヒットで知られるシネスイッチ銀座が登場)




◉現在は「TOHOシネマズシャンテ」となった。写真はチケット売り場(2014年撮影)。

 

                  

前回:【ミニシアター再訪】第18回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その7 シャンテ傑作選2 アメリカ・気鋭監督の出世作

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文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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