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【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

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女性を狙ったヒット作



 13年にこうした熟年の女性層を取り込んで話題を呼んだのが、ジャンヌ・モロー主演、イルマル・ラーグ監督の『クロワッサンで朝食を』(12)。パリのアパルトマンで暮らす80代の気難しい性格のヒロインとエストニア人の家政婦との交流を描いた作品(フランス、エストニア、ベルギーの共同製作)で、フランス本国では興行的にふるわなかったが、この劇場で封切られた時はシニアの女性層を取り込んで大ヒット(13年7月20日~9月13日上映)となり、週刊誌の映画欄にはこんな記事も出た。


 「初日から六十代以上の女性を中心に席が埋まり、記録的な猛暑の中、入場待ちの行列が晴海通りまで伸びて通行人の話題に。臨時のチケット発売所を増設し、熱中症対策にウォーターサーバーが導入されるなど、大型シネコンではありえないエピソードがいつくも誕生した」(「週刊文春」13年9月12日号)


 この夏の上映について次長は振り返る。


 「かつては映画館がいっぱいで、階段に並ぶということも当たり前に行われていたわけですが、今の若いお客様は時間を無駄にしたくないという意識が強く、ネットでチケット予約もできるので、劇場で並ぶことに対して不満の声が出るかもしれません」


 「『クロワッサンで朝食を』の場合はシニア層の女性客の方が中心でしたので、晴海通りまで列ができた時、お客様に声をかけたら、『確かに映画って、こうだったわね』と、並ばれた女性の方にも理解いただけました。そして、列に並ばれた方とお話をすることで、こちらにもちょっとした共有意識みたいなものも生まれていきました」


 シネスイッチ銀座は今もネットによる予約制は導入していないし、他のミニシアターのように入れ替え制を実施したのも2012年からと遅い。落ちついた年齢層の女性客も多い劇場ゆえ、若いデジタル世代には通じない昔ながらのやり方も受け入れられてきたのだろう。


 この劇場は女性のライフ・スタイルを見せる作品でも興行的な強さを発揮していて、06年のヒット作である荻上直子監督の『かもめ食堂』(05、群ようこ原作)は製作者側からぜひシネスイッチで公開してほしい、という話があって上映が実現した。吉澤次長によれば、この劇場の作品『幸せになるためのイタリア語講座』(00、04年2月7日~4月23日上映)のような展開を製作側は望んでいたそうだ。


 「映画はまだ完成していなかったのですが、プロデューサーのお話を聞いて、あまりにもおもしろそうな企画だったので上映を決めました」


 『幸せになるためのイタリア語講座』(ロネ・シェルフィグ監督)はデンマークのコペンハーゲンでイタリア語を学ぶ男女6人の物語だったが、『かもめ食堂』の舞台はフィンランドのヘルシンキで、ヒロイン(小林聡美)はこの街でささやかな日本料理の店を開いている。特に凝った食事ではなく、おにぎりやみそ汁など、日本の家庭料理を出す店だ。


 最初はお客が来ないが、あきらめないで続けるうちにお客が増えていく。シンプルな構成ながらも見る人に元気を与える作品で、食器やインテリアなどもかわいい。近年、北欧の自然な感触のインテリアが日本でも人気を集めているが、この作品にはきれいな雑誌のページをめくっているような感覚もあった。


 また、小林聡美との共演がもたいまさこで、そのためテレビの「やっぱり猫が好き」を思い出すという声も出た。


 「確かに見た人の間で“これは映画なのか”という意見もあった作品でした。テレビの「やっぱり猫が好き」を思いだす方もいらっしゃるかもしれませんが、中高年の女性の方もたくさん来て下さったので、そういう方は「やっぱり猫が好き」のファンとは違う層だったはずです。若い女性は雑誌の『ソトコト』などを読むような方が来て下さいました」


 やがては性格も世代も異なる3人の女性が食堂を切り盛りしていくが、小林やもたいと共演しているのが片桐はいりで、なんと、彼女はシネスイッチ銀座の前身、銀座文化でチケットの“もぎり”の仕事をしていたという経歴の持ち主だ。


 そこでの数々の数奇な出来事についてはユーモアがさえわたるエッセイ『もぎりよ今夜もありがとう』(キネマ旬報社刊)に詳しいが、『かもめ食堂』の初日ついてはこう記述されている。


 「かつてすりきれるほど眺めたスクリーンの前で、自らが出演した映画の舞台挨拶をする。まるで世界がぐるりと反転して、スクリーンの裏側から不思議な映画の一場面を観ているような気分だった。大入りの客席が、いつか見た懐かしい幻みたいに紗がかかって見える」


 シネスイッチのホームページには過去の上映作品に対する観客の感想が出ているが、この作品へのコメントを拾うと――。


 「ほのぼのした良い作品でした。フィンランドへもぜひ行ってみたいです。食器もすてきでした」(練馬区・41才・女性・主婦)


 「フィンランドの景色や小物もすてきで、とても満足」(板橋区・23歳・女性・会社員)


 作品の内容だけではなく、“すてき”な小物や食器なども人気を支えた大きな要因で、女性の支持を集める劇場の特徴が生かされた結果のヒットだろう。『かもめ食堂』は06年3月11日~4月28日の興行となり、その後は他の劇場でも上映された。



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