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【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されるシネスイッチ銀座

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挑発的な作品も



 こうした爽やかな女性映画だけではなく、ラインナップの中には毒がしたたり落ちるような女性映画もある。ミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』(01、02年2月2日~5月31日上映)は中年のピアノ教師(イザベル・ユペール)と若い弟子である青年(ブノワ・マジメル)との屈折した関係を描いたドラマで、ドロドロした生理感覚と冷たい知性が共存した衝撃作だ。


 「01年のカンヌ映画祭で見た時、“この映画、いい!”と、すぐにはいえない作品で、消化できない思いが残りました。ただ、個人的にはとてもおもしろい作品だったと思います」


 そう語る吉澤次長によれば、当時、“子宮で見る映画”と呼んだ人もいたそうだ。本当は見たくないのに、気づくと画面を見入ってしまう……。そんな強烈なタッチで女の内面が描かれていく。ポスターは中年女性と若い男性が踊っているように見えるデザインだが、実はトイレでのふたりの意外な行為を写し取っている。


 「この映画が終わった後、“奥様、こんな映画にお連れしてすみません”と謝っている女性の方もいらっしゃいました(笑)」


 この映画はカンヌ映画祭の審査員特別グランプリを受賞し、オーストリア出身の“隠れた才人”だったハネケが日本で注目されるきっかけになった。彼は21世紀の日本のミニシアターが発掘した監督のひとりで、その後は銀座テアトル・シネマで『白いリボン』(09、カンヌ映画祭パルムドール受賞)や『愛、アムール』(12、アカデミー外国語映画賞受賞)などが上映された。


 『愛、アムール』は老人介護がテーマで以前より見やすい作品に仕上がっていたが、『ピアニスト』の頃は(お得意の?)悪意が全開! 中年のヒロインが駐車場や浴室でグロテスクな奇行を見せるが、その理由が説明されず、こちらはあっけにとられながら悪意の渦の中に巻き込まれていく。そして、その恐るべき行為の中に人間の本質が読み取れるところが、ハネケ映画のすごさだ。


 『ピアニスト』は内容を容易に理解できる作品ではなく、むしろ、そこにおもしろさがあったが、「あの頃(02年)はなんとか上映できましたが、いまではこういう映画をうちでかけるのはむずかしいと思います」と吉澤次長は語る。


 「かつては背伸びしてむずかしい映画を見ることに喜びを感じる人がいました。分からなくても、なんかかっこいい、と考えて、その映画を楽しんでいましたが、今は“ああ本当に笑えた”あるいは“泣けた”という作品が求められていて、見終わった後、友だちと“こうだったよね”と確認できる作品がいいようです。どんでん返しなどがあって、ラストが分からなかった場合、つまらない作品ということになるんです」


 未知の世界と遭遇し、自分の知らないことを“発見”することに映画ファンが喜びを見出した時代もあったが、今は“発見”より“確認”こそが大事なのだろう。そう考えると、『ピアニスト』のように見る側の期待をことごとくぶち壊す挑発的な作品は上映がむずかしくなる。


 ハネケは個性が強い監督として知られているが、シネスイッチ銀座としては監督の作家性に対するこだわりはなく、あくまでも作品の内容重視という姿勢を見せてきた。


 「うちの劇場では最先端のエッジがきいた作品ではなく、(いい意味で)二番せんじでいいと思っているんです。入りやすい映画館をめざしているし、お客様もそんな場所を望まれているのではないかと思います」


 吉澤次長の“二番せんじ”という謙虚な表現の中にはこの劇場の個性が出ているのかもしれない。銀座四丁目というショッピングに最適の地の利を生かし、そこに買い物に来ている熟年女性や働くOLたちにアピールするような内容のものを上映する。そうすることでシネスイッチ銀座は好調さを維持している。


 「仕事などで疲れた時、娯楽として映画を見ていただいて気分を変えていただければ、と思っています」 吉村支配人はそんな言葉を添える。



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