1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 【ミニシアター再訪】第22回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その11 シネスイッチの定番『ニュー・シネマ・パラダイス』
【ミニシアター再訪】第22回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その11 シネスイッチの定番『ニュー・シネマ・パラダイス』

【ミニシアター再訪】第22回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その11 シネスイッチの定番『ニュー・シネマ・パラダイス』

PAGES


10か月の記録的ロングラン



 今、振り返ると、89年は日本の節目になった年でもある。1月に年号が昭和から平成へと変わった。そんな変化の年に“昭和のテイスト”も感じられるこの作品が公開されたことが今思えば興味深い。 


 『ニュー・シネマ・パラダイス』は12月16日にシネスイッチ銀座、1館のみで封切られた。 


 当時の新聞の映画評を紹介すると――。 


 「トルナトーレは、社会の変容への目配りといい、ユーモアのセンスといい、たいした力量である。もっとも、完成度となると、注文がないわけではない。青年期がかけ足だったり、帰郷のくだりが感傷過多だったり。しかし、そんな難点を補って余りある素晴らしいラストシーンを用意しているあたり、やはりただ者ではない。(中略)人間とは何といとおしいものなのか、生きるとは何てすてきなことか、そう思わずにいられないことはたしかである。この映画は、ラストシーンで『映画の映画』を超えるのである(登)」(『朝日新聞』89年12月9日夕刊) 


 「映画が人生と密接につながっていることを実感させる、素晴らしい作品が登場した。映画から人生を学び、人生を映画に重ねて生きてきた幸福な時代の人々。心からの笑いと、感動の涙なしには見られない秀作だ。(中略)古き良き『映画の時代』へのノスタルジーと映画への愛。そして、人生賛歌。(中略)映画ファンにはこたえられない贈り物だ。(つ)」(『読売新聞』89年12月26日夕刊) 


 また、前述のイベントでトークを行った淀川長治の感想は――。 


 「ハイ淀川です。これは私のために作られたような映画なんですね。イタリアとフランスの合作なんですけれど、精神は完全無欠のイタリア映画ですね。(中略)可愛い男の子が、映写技師のおじさんに憧れて憧れて、自分もあんな人になりたいなあと思うんです。ちょうど、私も子供のころ、そんな感じだったんですよ。(中略)二人の間にお父っつあんと子供みたいな友情がわいてきます。このあたりがいいですね。(そして)この監督がいかに映画好きか。映画への愛情が溢れていますね」(淀川長治『淀川長治 究極の映画ベスト100』河出文庫刊) 


 映画への愛を綴ったこの作品はアメリカでも高い評価を受け、その年のアカデミー賞の外国語映画賞にも輝いた。日本でも観客たちの圧倒的な支持を受け、ミニシアター興行記録の金字塔ともいえる数字をたたき出すことになる。 


 シネスイッチでは40週(約10カ月、89年12月16日~90年9月20日)のロングランとなり、3億6000万の興行収入を上げ、26万人の観客動員となった。以後、この記録は破られていないし、おそらく、今後、破られることもないだろう。当時と今ではミニシアターでの興行のあり方が違うからだ。 


 88年にシャンテシネ(現TOHOシネマズシャンテ)で『ベルリン・天使の詩』(87)が30週の連続上映になった時もそうだったが、当時のミニシアターは1館だけで映画が封切られ、お客が入り続ける限りかけていた。 


 しかし、90年代からは最初は1館で封切っても、ヒットすれば上映館を増やす上映方法がとられているし、最近はヒットしそうな作品は、最初から複数の映画館で封切られる。そのため、1館あたりの興行成績が低くなり、ロングランにもなりにくい。 


 『ニュー・シネマ・パラダイス』の頃はミニシアターの勃興期だったし、今のようにシネコンもなかったので、1館だけで上映され、40週という驚異のロングランが行われたのだ。 


 この作品はシネスイッチで、その後、何度も上映されている。封切りから3年後の91年には<完全版>が上映(11月7日~12月19日)。もともと、トルナトーレはこちらの版を希望していたが、あまりにも長すぎるため、プロデューサーが50分近くカットして、世間で知られるバージョンが出来上がった。完全版ではトトとエレナの愛の顛末が詳細に描かれる。また、05年にはデジタル・リマスター版もこの劇場にかけられた(05年12月23日~06年1月20日)。 


 『ニュー・シネマ・パラダイス』はシネスイッチ銀座の看板作品となり、興行記録においても伝説といえる数字を残したのだ。 



(次回は番外編として『ニュー・シネマ・パラダイス』を上映して閉館を迎えた都内のふたつの名画座ルポ)




◉シネスイッチ銀座は銀座4丁目の交差点に近いミニシアターである。



前回:【ミニシアター再訪】第21回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その10 愛されてきたシネスイッチ銀座

次回:【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12

 

 

文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 【ミニシアター再訪】第22回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その11 シネスイッチの定番『ニュー・シネマ・パラダイス』