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【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

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地元で親しまれる~三軒茶屋シネマ



 2014年7月20日に閉館したのが三軒茶屋シネマである。田園都市線の三軒茶屋の駅から徒歩5分のところにあり、開館は1954年(昭和29年)。実はこの映画館の至近距離に古い映画館(三軒茶屋中央)がもう一軒あったが、2013年2月に閉館した。こちらは今どき珍しい一軒家の映画館で、ピンクとブルーのカッパの絵の看板が目印だった。


 そのカッパ劇場の閉館から1年半後。まるで後を追うように三軒茶屋シネマも最後の日を迎えることになった。






◉2014年7月20日に閉館の三軒茶屋シネマ。年季の入った椅子は、愛着の証でもある。『ニュー・シネマ・パラダイス』が閉館のために上映された。


 『ニュー・シネマ・パラダイス』は6月28日から1週間上映された(併映は『ひまわり』)。上映最終日の夜に劇場を訪ねると、155席はほぼ埋まっている。田園都市線の沿線に住んでいるので、たまに利用した劇場だが、その夜はいつになく劇場に活気があった。


 映画が始まると、劇中のパラダイス座とこの作品を上映している映画館が同じ時代の空気を吸っていたことが分かり、その内容が妙にリアルに迫ってくる。主人公が故郷に戻り、廃墟となったパラダイス座を30年ぶりに訪ねる後半の場面は本当に胸が痛くなった。


 このあたりから場内では鼻をすする音が聞こえ、検閲で切られていた数々のラブシーンが登場する怒涛のクライマックスでは、鼻をすする音が最高潮に達する。


 エンドマークが出ると場内からは大きな拍手がわき上がった。


 映画が終わった後も、観客たちは場内を撮影したり、ロビーにいる映画館の人と話したりで、なかなか帰ろうとしない。


 「この映画館そのものの話だね」


 そう言いながら出口に向かう人もいた。


 廊下には近年上映された作品のチラシが貼られていて、それを熱心に見入っている人もいる。さらに映画のエンニオ・モリコーネのテーマ曲を口笛で吹きながら帰る男性までいて、改めてこの作品の根強い人気を思い知らされた。


 一方、劇場の閉館を告げる告知は映画館が置かれた厳しい状況を語っている。


 「当館は1954年の開館以来、60年間に亘り、邦画、洋画を幅広く上映して参りました。しかしながら、設備の老朽化、近年の市況の厳しさ等、諸般の状況から長期的な展望の見通しが立たず、誠に残念でございますが、閉館を決意した次第でございます。60年のご支援を賜わりましたことを、従業員一同、心より御礼申し上げます」


 これまで劇場の人と話をしたことはなかったが、その夜は思い切って声をかけてみた。


 劇場を運営していた東興映画の若い営業担当の竜嵜陽介さんに「『ニュー・シネマ・パラダイス』のどういうところが魅力ですか?」と訊ねたら、こんな答えが戻ってきた。


 「僕自身も何度も見ていますが、やはり、いいものはいい、ということでしょう。ノスタルジーを描いていますが、それだけではなく、しっかり前に進むという、ノスタルジーの先のメッセージも描かれていると思います」


 この劇場、60年前にスタートした頃は東映系の映画館だったそうで、近年は2番館(ロードショー公開された作品を少し遅れて上映する館)として2本立ての洋画や邦画を上映していた。観客層は幅広くシニア層から若い人まで来ていたが、近所に住んでいる人が多いようで、ラフなかっこうの人が目立つ(テレビ東京のご当地自慢番組でも、三軒茶屋名物のひとつとして報道されたことがある)。


 その夜の『ニュー・シネマ・パラダイス』はフィルム上映で、デジタルの機材は導入されていない。近年の映画のデジタル化だけが閉館の理由ではないだろうが、フィルムからデジタルへの移行はこうした古い映画館に少なからぬ影響を与えたはずだ。


 最後の9日間に上映が予定されているのは邦画の『そして父になる』(13、併映は『のぼうの城』〈11〉)だ。


 「名画座というより二番館という立ち位置の劇場でしたので、昨年の『そして父になる』を最後の作品にしました」 


 竜嵜さんはそう語っていた。



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