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【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

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サラリーマンの隠れ家~新橋文化劇場



 一方、8月31日で閉館となる新橋文化劇場は、JRの新橋駅から徒歩3分。開館は1957年(昭和32年)で、こちらも三軒茶屋の劇場同様、『ニュー・シネマ・パラダイス』の時代から現在までを生き延びた劇場だ。


 新橋文化は新橋駅のガード沿いにあり、文化劇場の隣のロマン劇場はポルノ映画館。しかも、斜め前には風俗系の店もある。新橋はサラリーマンの町というイメージがあるせいか、この劇場は“オジサンの聖地”とも呼ばれ、女性がひとりで行くには少々勇気がいる映画館だ。


 ひんぱんに利用していた映画館ではないが、忘れがたい思い出もある。ベン・アフレックの監督・主演の『ザ・タウン』(10)をこの劇場で見たが、シカゴの裏社会で生きる男たちの物語が、猥雑な新橋の雰囲気と共鳴し合い、すごくリアリティがあった。ガード下にあるため、JRの列車が走るたびにガタガタ音が聞こえるが、『ザ・タウン』のようなアクション映画の場合は、それも一種の音響効果(?)に思えたものだ。


 閉館が決まった後は『狩人の夜』(55)&『美しき冒険旅行』(71)という通好みの2本立てをはじめ、かなり意欲的な番組が組んでいた。『ニュー・シネマ・パラダイス』は今年の7月19日から26日まで上映された(併映はフランソワ・トリュフォー監督の渋いモノクロ映画『日曜日が待ち遠しい!』〈82〉)。


 平日の昼間の上映に行くと、『ザ・タウン』の時のやや危ないムードは影をひそめ、何人か女性客の姿もあった。そして、後部の座席に座ると、「カタカタ」いう音が聞こえてくる。そうフィルムのまわる音である。すでにデジタル版も出ている作品だが、三軒茶屋シネマ同様、こちらもフィルム上映。その「カタカタ」いう音はフィルムという生き物の呼吸に思えた。


 映画が終わった後、外でまじまじと建物を見た。劇場の前にはガラス貼りのショーケースがあり、その向こう側にポスターやプレスなどの宣材が貼られている。昭和の時代、こういう作りの映画館が多かったが、近年は見かけなくなった。


 そして、ショーケースの上にこんな告知があった。


 「この度、JR高架下の耐震補強工事に伴い、閉館することになりました。当館は昭和32年(1957年)より長きに亘り、皆様に支えられて営業してまいりました。皆様のこれまでのご支援ご愛顧には従業員一同より御礼申し上げます。誠にありがとうございました」








◉新橋文化劇場は2014年8月31日に閉館。 こちらも『ニュー・シネマ・パラダイス』を閉館前に上映していた。


 ショーケースの風景をカメラに収めるため、映画館の前にある風俗店の前に立って、何度かシャッターを切った。外側は白で統一され、横に広い作りになっている。


 新橋の劇場で『ニュー・シネマ・パラダイス』の廃墟と化した映画館を見てしまうと、2日前に閉館した三軒茶屋シネマのことが気になり、三軒茶屋で下車した。


 劇場の前に行くと、劇場名の書かれた看板はそのままだったが、入口のシャッターは下ろされ、チケット売り場も閉まっている。


 『そして父になる』を閉館の前日に見た時は劇場に活気があったが、その下ろされたシャッターは、もう2度と開くことがない。見たばかりの廃墟のパラダイス座の映像が目前の映画館と重なる。


 三軒茶屋シネマや新橋文化が登場した1950年代(昭和20年代後半から30年代)。日本は高度成長期への道を歩み始めた。映画界では東宝の『七人の侍』(54)『ゴジラ』(54)などが大ヒット。日活が送り出した爽快なタフガイ、石原裕次郎やテレビ放映されたプロレスの力道山の試合にも人々は釘付けになった。成長期にふさわしい新しいヒーロー像が求められた時代だ。


 テレビの出現に映画界は脅威を感じながらも、映画の興行も勢いがあった。そんな時代からすでに60年が過ぎている。


 三軒茶屋や新橋の劇場は人間でいえば還暦なので、引退となっても不思議のない年だが、都内で歴史のある名画座や二番館が減少し、80年代以降にできたミニシアターにも逆風が吹いている昨今の状況を考えると、閉館は残念だ。


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