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【ミニシアター再訪】第24回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その1 渋谷のカリスマ、シネマライズのはじまり

【ミニシアター再訪】第24回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その1 渋谷のカリスマ、シネマライズのはじまり

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背伸びしたティーンも観客



 こうした姿勢は実は当時のシネマライズにも通じていたのではないだろうか。本のあとがきで専務はヴァション本人の印象をこう書いている。 


 「訳者がクリスティーン・ヴァションに初めて会ったのは、<シネマライズ>が某大手映画会社との契約を終了し、完全〝インディペンデント〟な映画館としてスタートした直後で、『ポイズン』の上映を決めた後、彼女が日本の市場調査の為に来日した時でした。(駆け出しだった彼女は)自分の仲間たちで作っていくはずの〝人の心を揺さぶる〟ような映画について熱く語っていました」 


 ヴァションの作品群はシネマライズでも上映されていったが、挑発性や先鋭性がありながらも、娯楽作としての要素もある、という方向性は、この劇場の他の上映作品にも見られる特徴だろう。 


 93年にはカンヌ映画祭で注目されたクエンティン・タランティーノ監督の衝撃的なデビュー作『レザボア・ドッグス』がかけられているが、その後のタランティーノ作品を見れば分かるように、マニアックなこだわりを散りばめながらもエンタテインメントの要素もあり、出演する俳優たちにも華があるのが、タランティーノ映画の特徴だ。 


 前述のトッド・ヘインズ映画の映画にしても、グラムロックに生きた人々の栄光と挫折を追った『ベルベット・ゴールドマイン』にはユアン・マクレガーやクリスチャン・ベール、ジョナサン・リース・マイヤーズなど、今ではメジャー作品で活躍する俳優たちの若き日の姿を見ることができる。 


 シネマライズの作品はアート性が高いが、それでいて色気や娯楽性を含んでいるものも多かった。 


 最先端のアート志向のミニシアターとして当時話題を呼んでいた六本木のシネ・ヴィヴァン・六本木との大きな違いはそこだろう。シネ・ヴィヴァンのプログラムの常連執筆者はニュー・アカデミズム派の評論家の蓮實重彦であり、ジャン・リュック・ゴダール、ヴィクトル・エリセ、テオ・アンゲロプロス、ダニエル・シュミットなどヨーロッパの高度な知性と教養を感じさせる作品の上映が目立った。 


 しかし、アート感覚がありながらも、シネマライズの作品群にはもっとファッション性があり、セックス&ドラッグ、(時には)ロックンロールの要素も入っていた(ゲイやレズビアンが出てくる映画も多く上映している)。 


 DVDショップで見かけた前述の『ドラッグストア・カウボーイ』のコピーに出てくる中学生は学校をサボって、この作品を見にいったようだが、シネマライズにはこうしたティーンたちも引きつける空気が流れていたのだろう(『ドラッグストア・カウボーイ』はマット・ディロン演じるジャンキーが旅を続ける物語であり、アウトサイダーの心の軌跡を綴った映画だ)。 


 シネ・ヴィヴァン・六本木はティーンのアウトサイダーが好んで入る場所ではなかったはずだ。これは六本木と渋谷という街の個性の違いでもあるのだろう。 


 不良性もある渋谷の個性を最大限に生かした超ヒット作『トレインスポッティング』が、いよいよ96年に登場することになる。 



(次回はシネマライズの代表者と専務が大ヒット作『トレインスポッティング』をはじめ、数々のヒット作を振り返る)




◉シネマライズは、センター街側からスペイン坂を上り切った、渋谷区宇田川町13-17に所在していた。



前回:【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

次回:【ミニシアター再訪】第25回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その2 『トレインスポッティング』とシネマライズの季節 

 

 

文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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