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【ミニシアター再訪】第25回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その2 『トレインスポッティング』とシネマライズの季節

【ミニシアター再訪】第25回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その2 『トレインスポッティング』とシネマライズの季節

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変化のきざし



 ゼロ年代もヒット作は続いた。約18万人を動員し、2億8000万の興行収入を上げ、シネマライズの歴代ナンバーワン映画になった幻想的な恋愛映画『アメリ』(01、ニューセレクト配給、35週)。ソフィア・コッポラ監督の才気が出ていた2本の監督作、『ヴァージン・スーサイズ』(99、東北新社配給、20週)と『ロスト・イン・トランスレーション』(03、東北新社配給、17週)。ヴィム・ヴェンダース監督のキューバの音楽映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99、日活配給、25週)。コミックが原作のスポーツ青春映画『ピンポン』(02、アスミック・エース配給、16週)、アン・リー監督の悲劇的なゲイのラブストーリー、『ブロークバック・マウンテン』(05、ワイズポリシー配給、15週)。 



◉アン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(05)はゼロ年代の話題作ひとつ。ライズのイチオシ監督のひとり、ハーモニー・コリン監督の『スプリング・ブレイカーズ』(13)も


 挑発的な作品だった。


 しかし、90年代にあった“熱”は時間の経過と共に少しずつ消えていった。 


 ひとつにはミニシアターの興行形態の変化があげられる。80年代は1館だけでロングランができたし、90年代は特定のミニシアターでロングランを行ってから他の劇場に広げる興行が可能だったが、近年は複数のミニシアターやシネコンで同時に封切られるようになった。 そのため、どの上映館も平均的な入りとなり、特定の映画館だけでロングランされた時に生まれた強烈な熱気が消えてしまった 


 また、近年の劇場はインターネットでチケットを予約できるため、映画館の前に並び、順番を待ちながら入場する必要もなくなった。ユーザーにとって、ネットの予約は便利ではあるけれど、かつての観客は不便さゆえに得がたい経験もしていたようだ。 


 香苗専務「『トレインスポッティング』はR15指定で、中学生は入れなかったんですが、中3の春休みに高校生と偽って来た子もけっこういたらしいです。そういう子供たちの場合、渋谷のシネマライズの前に延々と並んだという体験も含めて、その映画を見たことが、とてもいい記憶として残っているようです」 


 光裕社長「あの頃、うちに地方から見に来る人も多く、渋谷駅から道を聞きながら緊張した状態でたどり着くと、そこに見たこともないような建物があって異様に興奮した、という話も聞いたことがあります」 


 ゼロ年代以降のネットやシネコンの普及で、都市部にある個性的なミニシアターの興奮を“体感”する機会が減ってしまい、シネマライズを支えていた若い観客層の気質も変化してきた。 


 香苗専務「今はネットに使う時間とお金がみなさん圧倒的に増えているようです。それに昔は人が見ないから、その映画を(ミニシアターで)見るという感覚がありましたが、今はその逆で、みんなが見ているものを見るようになってしまった」 


 光裕社長「みんな失敗したくないから、まずは話題のものをチェックするんだと思う。それにその時代ごとに熱くなるものが違うから、今の若い子たちは映画より先にYoutubeをまずチェックすると思います」 


 ネットの普及によって、映画を撮る側の姿勢も変わり、以前の作家たちが持っていた“覚悟”も必要とされなくなってきた。 


 香苗専務「かつての作家は自分の魂を削って作品を撮っていたと思います。それに作った作品をプリントにしてどこかで上映しないと、他の人に見てもらえなかった。でも、今は以前より簡単に撮れるようになりました」 


 光裕社長「映画だけではなく文章にしても簡単にいいか悪いかをネット上で発表できるようになった。それがうまくいく場合はいいけど、何も知らない人にそこまで言われたくない、と思う意見も出るようになりました。かつては身を削って、それをしないと生きていけないような人がやっていたのが、今はいい意味でも悪い意味でも、お手軽になってしまったのでしょう」 


 香苗専務は「90年代の上映リストはいま見直してもうれしくなります。振り返ってみると、新しい才能もたくさん出てきて、その時の空気や気分と社会状況、それに作家の才能とが幸せな形で融合することで、作品をヒットさせることができました。すごくいい時代にかかわることができました」 


 光裕社長「本当にそう思います。今のように無料のYoutubeでかなりおもしろい映像が見られる時代になると、作家の育ちようがない。うちに作品をかけていたペドロ・アルモドヴァルのように、今も結局、同じ人が活躍していますし……」 


 時代の変化に対する鋭い指摘が、かつての夏の日々を知る人間にはけっこう突き刺さってきた。



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