1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 【ミニシアター再訪】第26回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その3 渋谷の先駆的なミニシアター、シネセゾン渋谷
【ミニシアター再訪】第26回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その3 渋谷の先駆的なミニシアター、シネセゾン渋谷

【ミニシアター再訪】第26回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その3 渋谷の先駆的なミニシアター、シネセゾン渋谷

PAGES


リバイバルに個性が出る



 この劇場でレイトショー上映が本格的に始まったのは88年の『モニカ』(『不良少女モニカ』〈52〉に改題)からだが、90年代は『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』(75)や『黒い十人の女』(61)のリバイバルを成功させ、この2本がレイトショーの歴代動員数の1位と2位になっている。 


 前者はフランスの歌手であり、監督・俳優でもあった異端児、セルジュ・ゲンスブールの監督デビュー作で、彼の良きパートナーとして知られたジェーン・バーキン主演の奇妙なラブストーリーだ。 


 ヒロインはジョニーという名前の女の子で、小さな町のウエイトレスとしてさえない日々を送る彼女は、ある時、店に現れたゲイの男と恋に落ちる。ただ、通常のセックスができない彼はジョニーを女ではなく、男として愛するようになる。彼には男の恋人もいて、その恋人はふたりに激しく嫉妬する。 


 ゲイの主人公はアンディ・ウォーホル映画の主人公として知られていた伝説的な男優、ジョー・ダレッサンドロで、ゲンスブールの屈折した愛の美学とひねったユーモアが印象的な〝世にも不思議なラブストーリー〟だ。少年のように細いバーキンの体型を生かした作品でもあった。 


 作品が完成した70年代には輸入されなかったが、ミニシアター創生期の84年に俳優座シネマテンで初公開されている。 


 それから約10年後のリバイバル上映について、シネセゾン渋谷の平野博靖元支配人はこう振り返った。 


 「シネマテンで上映された時は英語版で、日本語タイトルも『ジュ・テーム…』となっていましたが、この時はフランス語版のプリントを取り寄せ、タイトルも原題通り『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』に変えました。デラ・コーポレーションの配給権でリバイバルが実現しました」 


 95年7月22日から10月20日まで13週の上映となり、同劇場のレイトショーの歴代動員数ナンバーワンとなっている。 


 「その頃、〝ゲンスブール委員会〟というのを勝手に作っていまして、ミュージシャンのさえきけんぞうさんやフランソワーズ・モレシャンさんのご主人でゲンスブールの評伝も翻訳されている永瀧達治さんなど、フランス文化に傾倒していた方々が入っていました。音楽ファンが多かったです」 


 ゲンスブール自身は91年3月に他界しているが、死後も多くのファンがいた。 


 「あの頃の彼は〝不良中年〟として知られていて、体制にこびないアナーキーな感じと女性関係も含めたスキャンダラスな生き方に共感した人たちがいました」 


 平野さんは彼の魅力についてそう振り返る。 


 『ポップ中毒者の手記』シリーズ(大栄出版刊、のちに河出文庫刊)などの著作でも知られたエディターの故・川勝正幸はそんなゲンスブールの(還暦すぎの)88年のコンサートをレポートしている。 


 「5月21日、昭和女子大学人見記念講堂。いやはや、セルジュ・ゲンスブールのオヤジにも困ったもんだ。開演7時の予定が、7時すぎになって、ようやくロビー内の入場のみ可。これじゃ先行き不安。本当に演れるのだろうか。きのうのパーティじゃ酔ってベロベロだったって噂だし」 


 しかし、コンサートが始まると──。 


 「最前列から火がついて、イキナリ客の半分がステージ前に殺到する。おしゃれなおシャンソン・カップルが面白いように帰る帰る。残った僕らはゲンスブールが切れ目なく吸うジタンの強烈な匂いに包まれ、至福の世界へ」(『ポップ中毒者の手記(約10年分)』より) 


 このレポートからも分かるようにアンモラルな生き方を通すことで、ゲンスブールは強烈なインパクトを残した。そんな彼にとって『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』は監督としての代表作であり、また、テーマ曲となった「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」は女性のあえぎ声(恋人のバーキンの声)を取り入れたエロティックなナンバーとしてスキャンダラスな話題を呼び、彼の代表曲として知られる。


 そんなゲンスブールやジェーン・バーキンの作品群が95年から96年にかけてシネセゾン渋谷のレイトショーで次々に上映されて興行も成功している(『スタン・ザ・フラッシャー』〈90〉は9週、『スローガン』〈68〉は10週の上映)。 



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 【ミニシアター再訪】第26回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その3 渋谷の先駆的なミニシアター、シネセゾン渋谷