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【ミニシアター再訪】第27回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その4  シネクイントの誕生とギャロ・ブーム

【ミニシアター再訪】第27回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その4  シネクイントの誕生とギャロ・ブーム

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新しい感性の邦画も成功



 若い感性の邦画の興行も積極的に行ってきた。歴代興行の第3位は犬童一心監督の代表作『ジョゼと虎と魚たち』である。03年の12月に封切られ、17週の興行。辛辣な言葉を吐く足の不自由な女の子(池脇千鶴)とナイーブな大学生(妻夫木聡)との純粋な愛の物語で、主演ふたりからベストの演技が引き出され、心にしみるラブストーリーとなっている(原作は田辺聖子の短編小説)。日本の人気バンド、くるりの担当した音楽も印象的だ。 


 この作品は翌年04年の4月まで上映となっているが、堤プロデューサーに言わせると、04年は邦画の当たり年で、『下妻物語』(10週上映)や『スウィングガールズ』(7週上映)もかけられ、どちらも大ヒットとなった。 


 「この年は邦画が絶好調でした。『下妻物語』は東宝に初めて声をかけていただいた作品で、まだ、映画が出来上がる前にシナリオを読んだら、すごくおもしろかったので、少しだけ作品に出資しました。出資までしたのは、これが初めてでしたが、その後はこうしたケースが増えていきました。出資も含めて東宝のような大手の邦画が上映できるようになると、選択の幅が広がっていきました」 


 こうして若者向きの邦画にも強いミニシアターというイメージが定着していく。歴代の興行成績を振り返ってみると、ベストテンのうちの半分が邦画である(『ジョゼと虎と魚たち』『告白』〈10〉『下妻物語』『デトロイト・メタル・シティ』〈08〉『ハッシュ!』〈01〉『嫌われ松子の一生』〈06〉)。11位以下も『刑務所の中』(02)『さくらん』(07)『キサラギ』(07)とエンタメ性も含んだ邦画がズラリと並ぶ。 


 21世紀に入ってから洋画以上に邦画が興行界で力を持ち始めたが、そんな傾向がシネクイントのヒット作からも読み取れるし、邦画に強いイメージも作り上げることで、21世紀を生きぬくミニシアターとしてのパワーも獲得できたのだろう。 



◉2014年公開の園子温監督のラップ・ミュージカル『トーキョー・トライブ』も好調だった 


 洋画に関しては、ダニー・ボイル監督のホラー映画『28日後…』(02)のヒットでつながりができた大手の20世紀フォックス配給の良作も積極的に上映している。特に幼い娘を少女のミスコンに送り込もうとする落ちこぼれ一家の再生をユーモラスに描いた『リトル・ミス・サンシャイン』(06)公開が実現できたことを堤プロデューサーは誇りに思っている。 


 「最初にアメリカのサンダンス映画祭で見た後、配給元のフォックスに連絡を入れました。派手な作品ではなかったんですが、すごくおもしろくて、ぜひ上映したいと思いました。観客動員はおどろくほどすごい数字ではありませんでしたが、なんとか9週上映しました。上映中に作品賞を含むいくつかのアカデミー賞の候補になりました。もし、最初から賞にからむと分かっていたら、映画会社もチェーン系公開にしたかもしれないし、賞にターゲットをあわせた時期に封切ったかもしれませんが、賞が発表された頃、すでにうちの劇場で上映中でした。この時、作品賞を獲ったのは『ディパーテッド』(06)でしたが、クオリティは『リトル・ミス・サンシャイン』の方がずうっといいと思いました。この作品に関しては興行成績うんぬんではなく、この映画をうちで上映できて本当に良かったね、とみんなで話が盛り上がりました」  


 06年にかけた『リトル・ミス・サンシャイン』に続き、現代の男女の軽妙なラブストーリー『(500)日のサマー』(09)もフォックスの配給作品で10年に上映された。どちらも映画業界内で評判がよかった。いかにも売れ線の作品だけではなく、玄人受けする質の高い作品も上映してきたわけだが、とにかく、どんな時も「見て楽しめる作品」ということを基準に選んできた。 


 「過去のミニシアターにはどこか上から目線のところもあったかもしれませんが、それはイヤだったので、目線をお客さんに合わせようと思って始めました。自分たちがおもしろいと思うものを上映し、むずかしいと思うものはやらない。むずかしいものは自分たちも分からないことがあるからです」 


 エンタメ性を打ち出した大衆的な作品のセレクションにこだわることで運営を続けてきたが、かつての観客と今の観客はどこが違うのだろう? 


 「そうですね……今の観客には自分で作品を見つけようとする動きがありませんね。だから、他とは違う作品の上映にこだわってきたミニシアターが衰退していったのかもしれません。初日を見ていても、劇場に駆け込んでくる、みたいな熱気がありませんね。何日も〝待ってました〟みたいな感覚がないんです。『バッファロー'66』の頃のように、今は映画館に並んで待つという熱いものが欠けています。それに複数の映画を同時上映しているシネコンに慣れた若い観客が増えたので、たとえば、目的の映画が混んで見られない場合、その作品にこだわるのではなく、別の映画でいいや、となってしまうようです。うちの場合、〝ここは1館しかないの?〟と言われることがあります」 


 都内のミニシアターの中には、中高年やシニア層をターゲットにした映画館もあるが、シネクイントは今も若者を意識した作品をセレクションしている。 


 「若者向けのものをずうっと選んでいくのは確かに疲れますが、だからといってシニア向きの作品は上映していません。渋谷の場合、センター街という深くて黒い川を渡ることをシニアはいやがるので、シネクイントに来ないと思います。それに『下妻物語』や『告白』の中島哲也監督がこんなことを言っていました。『どうせ映画を撮るんだったら、若い奴らを喜ばせたい。そうすれば、その人生に影響を残すことができるから』。だから、大変なんですが、若い層を意識しつつ、今後も独自のカラーを出していきたいと考えています」 


 シネクイントがスタートして15年。渋谷が熱かった〝99年の夏〟に産み落とされたパルコ発のミニシアターとして、その挑戦と模索が続いている。 


(次回はBunkamuraの映画館、ル・シネマの関係者が代表作を振り返る)




◉当時、シネクイントは渋谷区宇田川町14-5、渋谷パルコ・パート3の8Fに所在した 



前回:【ミニシアター再訪】第26回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その3 渋谷の先駆的なミニシアター、シネセゾン渋谷 

次回:【ミニシアター再訪】第28回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 

 

 

文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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