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【ミニシアター再訪】第28回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 Bunkamuraの映画館、ル・シネマ

【ミニシアター再訪】第28回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 Bunkamuraの映画館、ル・シネマ

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アジア映画も大ヒット




◉ウォン・カーウァイ監督の傑作『花様年華』(00)はマギー・チャンとトニー・レオンの成熟した大人の演技が絶賛された。チャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』(99)はチャン・ツィイーの初々しい魅力が評判を呼ぶ。


 一般的にはフランスを中心にしてヨーロッパ映画に強い劇場という印象が強いが、実はアジア映画にも数々の忘れがたい作品がある。


 その筆頭に挙げられるのがチェン・カイコー監督の代表作『さらば、わが愛/覇王別姫』(93、ヘラルド・エース配給)だろう。94年2月に封切られ、26週(のべ43週)のロングランとなり、1億7000万円の興行収入。この劇場の歴代2位で、9万6000人を動員した。


 今世紀初頭の中国で京劇の役者としてコンビを組むふたりの男の愛と人生に迫るドラマで、女形の役者を演じたレスリー・チャンにははっとする美しさがある。また、男たちの間に割り込む元娼婦役のコン・リーも力強い存在感を発揮する。


 中国の〝第五世代〟と呼ばれた監督のひとり、チェン・カイコーのパワフルな演出と歴史のうねりをとらえた圧倒的なカメラワーク。骨太のドラマで「午前10時の映画祭」でも上映されている。


 「この年のカンヌ映画祭のパルムドール(大賞)を『ピアノ・レッスン』(93)とともに受賞した作品ですが、幸運にも映画祭の前に上映を決めていました。ヘラルド・エースの原正人社長〔当時〕に〝ちょっと、見てみない?〟と、まずは連絡をいただきました。最初、見た時は字幕もなく、詳しい内容は分かりませんでしたが、その後、カンヌ映画祭で大賞を受賞できたのはうれしい驚きでした」


 ヨーロッパ志向の強かったル・シネマにとって、この作品は初めてのアジア映画だった。


 「この作品で華々しいアジアデビューをさせていただきましたが、26週のうちの17週はル・シネマの1と2で上映しました。お客様はどちらかといえば男性客が多く、ひとりで40回、見たという方もいらっしゃいました。当時は中国に対する情報があまりなくて、劇中に登場する文化大革命のこともそれほど明かされていなかったようです。芸術家同士で告発し合う場面も出てきますが、中国の〝第五世代〟にとって、この部分は創造のための核になっていて、中には強制的に農業を強いられた人もいました。長い年月にわたる物語なので、年齢を重ねた後に見た方がさらにぐっとくる作品ですね」


 初めて日本のミニシアター(シネマスクエアとうきゅう)で上映されたカイコー作品は『黄色い大地』(84)だったが、ヘラルド・エースはこの監督の作品を配給し続け、会社名がエース・ピクチャーズと変わってからは、レスリー・チャン、コン・リー主演のラブストーリー、『花の影』(96)も配給。このカイコー作品もル・シネマで17週(のべ22週)の上映となり、歴代の第14位だ。


 日本でも人気を得ながら、2003年に46歳で自ら命を絶ったレスリー・チャンについて中村プロデューサーはこう回想する。


 「『さらば、わが愛/覇王別姫』のレスリーは京劇の美しさを見せてくれました。彼が亡くなった時は本当にショックでした。自分のファンをすごく大事にする人で、ファンの列が切れるまできちんと握手していた姿が忘れられないです」


 21世紀に入ってからはクラシック音楽をテーマにしたカイコーの人情劇『北京ヴァイオリン』(02、シネカノン)もル・シネマに登場し、15週間の上映。歴代の第19位となった(カイコー作品は3本、20位内に入っている)。


 また、チェン・カイコーと並ぶ、〝第五世代〟の監督のひとりであるチャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』(99、ソニー・ピクチャーズ)は24週上映され、歴代の5位。コン・リーに代わって、チャン・イーモウ監督の新たなミューズとなった新人女優、チャン・ツィイーの純情可憐な演技が評判を呼んだが、この作品については「男性客が多くて、見た方が号泣されていました」と中村プロデューサーは語る。


 一方、女性層を意識して成功したアジア映画が、2001年にかけられたウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(00、松竹、メディア・スーツ共同配給)。カーウァイ映画に縁の深いマギー・チャンとトニー・レオンが主演で、心の奥に秘められた愛が主人公の眼差しや指の動きなどで官能的に表現された大人のためのラブストーリーだ。この年のカンヌ映画祭では主演男優賞(トニー・レオン)とフランス映画高等技術委員会賞を獲得している。


 「カーウァイ作品はシネマライズで『天使の涙』(95)、『ブエノスアイレス』(97)等が上映されていましたが、ル・シネマでもいつか上映したいと思っていました。『花様年華』は女性層狙いだったのでうちにまわってきましたが、本当に美しい映画でした。主演のふたりは西洋人にはない魅力があり、あれこそアジアン・ビューティと思います。マギーの着ていたチャイナ・ドレスは素晴らしかったし、トニーも色っぽいですね」


 結果的には15週上映となり、映画ファンに今も根強い人気を誇る作品となっている。この時は銀座テアトルシネマでも上映され、ル・シネマにとっては、今につながる単館拡大興行のはしりとなった。


 アジアの映画人は他に韓国の鬼才キム・ギドク監督(『春夏秋冬そして春』〈03〉、『』〈05〉、『嘆きのピエタ』〈12〉)、中国のジャ・ジャンクー監督(『罪の手ざわり』〈13〉)等も登場し、特に男性ファンに強く支持されているという。


 ただ、これまで邦画は一度もかけたことがない。その理由を尋ねてみると、「映画に分けへだてはないので、特にこだわってそうしてきたわけではないのですが……」と淡々とした答えが返ってきた。


 「特に最近のように洋画と邦画の興行的な立場が逆転してしまうと、小さな国の作品は公開されずに終わってしまうケースも出てくるので、なるべく、その受け皿になりたいという思いがありまして、今に至っています」


 その結果、邦画ではなく、洋画中心の興行を行ってきたようだ。そこには知らない国のことも映画で知ってほしいという願いも隠されている。


 「ネットの環境が整って世界とつながってしまうと、情報収集が以前より簡単になり、その分、若い人が外に出て行かなくなった気がします。しかし、見るのと聞くのは大違いです。映画はその窓を開いてくれる最高の語り部で、映画と向き合うことで、その国の宗教や家族、習慣なども知ることができます。それをきっかけにして、もっと興味を深めて、その先に行っていただけると本当にうれしいです。そのためにこの仕事をやっているのかもしれません」



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