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【ミニシアター再訪】第28回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 Bunkamuraの映画館、ル・シネマ

【ミニシアター再訪】第28回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その5 Bunkamuraの映画館、ル・シネマ

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旅やグルメの映画も




◉ジェレミー・アイアンズの知的でダンディな演技を堪能できる『リスボンに誘われて』(13)はポストガルが舞台。ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』(11)はパリの観光気分に浸れる。人気ピアニスト、マルタ・アルゲリッチのドキュメンタリー『アルゲリッチ、私こそ、音楽!』(12)はクラシック音楽のファンを喜ばせた。


 これまでのル・シネマの25年間を振り返ると、女性層を意識しながら旅やグルメが登場する映画も上映されてきた(2014年の秋はポルトガルの旅行者を主人公にしたジェレミー・アイアンズ主演の『リスボンに誘われて』〈13〉が好調だった)。


 また、複合施設の中のミニシアターという立場も考慮して、クラシック音楽やバレエ、絵画といった要素が入った作品もかけられている(初めてかけたドキュメンタリーはバレエが題材の『エトワール』〈00〉。最近では人気ピアニスト、マルタ・アルゲリッチのドキュメンタリー『アルゲリッチ私こそ、音楽!』〈12〉も上映)。


 さらに中高年から若いカップルまで幅広い人気を誇るウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』(11)や『ブルージャスミン』(13)もヒットしている。


 近年は前述のジャ・ジャンクー作品のように、シネアスト系の観客に支持されてきた先鋭的な作風の監督も上映して、以前より幅広いセレクションを行うことで、新しい観客層も獲得してきた。


 「気づいたら25年間が過ぎていたんです。出会う作品がどれも新しいし、その作品を育てる新しい仲間たちとも出会ってきました。それがこの仕事の喜びのひとつでもあります」


 この〝作品を育てる〟という発想は効率第一主義で上映作品を決める〝シネコン〟にはないものかもしれない(ヒットしない作品はすぐに切り捨てられる)。ただ、ミニシアターも以前より上映サイクルが早くなっている。


 「ロングラン作品が出て、年間で数本しか上映していない年もありましたが、今はかつての倍以上の本数を送りだしているので、1本ずつにかける時間が短くなってしまいます。だから、作品がひとり歩きするような状況になるのはむずかしくなりました。ただ、最近でいえばシネスイッチ銀座の『チョコレートドーナツ』(12)みたいに小さな映画が口コミを通じて意外な広がりを見せているし『パガニーニ愛と狂気のヴァイオリニスト』(13)以降、うちもいい流れになっています」


 かつて『パガニーニ』でオープンを迎えた劇場は、25年後、同じ音楽家を描いたもうひとつの『パガニーニ』の上映も経て、新たな勢いをつかんでいるようだ。


 観客層はシニアが中心で、以前からのファンがそのままついているという。そこで若い層を呼び込むため、学生は平日1100円というサービスも導入している。


 「今はみんなが行くから自分も行くという見方が主流になっていますね。悪い意味でのグローバリゼーションでしょうか。でも、本当はその作品を自分がどう感じるのか、その発見を大事にしてほしいです。新しいものと出会った時に感じるときめきや喜び。それこそがカルチャーや芸術にふれることの醍醐味だからです。ネット社会はシロとクロがはっきりしていて、中間がないと思いますが、実は中間にこそ、本当のおもしろさがあるはずです」


 あいまいさの中にこそ、真実が宿る。確かにそれが芸術の神髄かもしれない。


 中村プロデューサーは「映画との出会いは人との出会いであり、それが世界とつながるきっかけになり、自分の周辺をも豊かにしてくれる」と考えている。映画に対する広い視野とやわらかな好奇心こそが、ル・シネマの25年間を支えてきた大きな原動力だったのだろう。


 〝大人がくつろげる渋谷のスペース〟として、Bunkamuraは今も穏やかな活力を失っていない。



(次回は最後の取材記事で、神保町の老舗、岩波ホールが登場。関係者がその長い歴史を振り返る)




◉Bunkamuraル・シネマは渋谷区道玄坂2丁目に所在。ビルの6階に受付カウンターがある。


前回:【ミニシアター再訪】第27回渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その4シネクイントの誕生とギャロ・ブーム

次回:【ミニシアター再訪】第29回神保町で立ちあがった「ミニシアター」の源流



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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