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【CINEMORE ACADEMY Vol.2】脚本編 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作り方

【CINEMORE ACADEMY Vol.2】脚本編 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作り方

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脚本づくりで最も大切なのは、綿密な「取材」



Q:改めて、藤井監督が脚本の作り方をどう学ばれたのか、お聞きできればと思います。


藤井:大学の専攻が、脚本コースだったんです。日本大学芸術学部映画学科脚本コースっていうところで、基本的な脚本の書き方や、脚本には何が必要かを学びました。例えば、「王道の作品の脚本には、3つの要素が必要です。『葛藤』と『枷(かせ)』と『伏線』です」みたいなことですね。


いつか読書する日』(05)などの脚本を手掛けた僕の師匠・青木研次先生には、「市井の人々をちゃんと書きなさい」と教わりました。エンタメであっても、例えば大爆発が起きる映画でも、半径5メートルの人たちを描きなさいと。それは今も大事にしていることです。ただ、具体的な部分においては、ほぼ独学に近いですね。実際に書いていく中で培っていくのが、自分の中では一番大きかったです。


僕は、生きてきた33年間すべてが脚本の授業料だと思っているんです。例えば、僕が65歳が主人公の映画を今すぐに書けない理由は、やっぱり経験してないから。自分の経験や思想、考え方から脚本を作っていくケースが多いです。


Q:なるほど。取材をして、足りない部分を埋めていくこともありますよね。『新聞記者』(19)だと、事前にかなり取材を行ったと伺いました。脚本の執筆にあたって、どんな準備をされるのでしょうか。


藤井:そうですね。『新聞記者』の時は、クランクインまで数ヶ月しかありません、といった中で脚本をガラッと書き直したのですが、そういう場合は特に取材が大事ですね。



例えば登場人物が実在する方だったら、実際に会いに行きます。オリジナル作品の場合でも、本当に取材・取材・取材の連続ですね(笑)。最近の例だと、雑誌記者さんに取材したり、有名幼稚園の園長先生に子どもの生態を聞いたり、子育てしていて大変なことをお母さんたちにヒアリングしたりしています。


全部に意味があるかは分からないですが、皆さんからお話を聞いていると、「そんなことは知らなかった!」って発見がすごく多いんですよね。1時間の取材のうちに一瞬だけでも気づきがあれば、それは僕にとっては意味があることなんです。最近はちょっと時間がないので、ホテルにこもって集中して、脚本を書き続けることも多いですが(苦笑)。僕は「精神と時の部屋」って呼んでますけど(笑)。


Q:『ドラゴンボール』ですね(笑)。先日「脚本合宿に行ってきました」と話されていましたが、藤井さんは合宿だったり、外界と隔絶して書き上げるパターンが多いですか。


藤井:僕自身が会社員でもあるので、宣伝周りや編集など波状的に仕事があって……。脚本は、それをこなしながらでは書けないんですよ。


朝起きたら文字を書くこと以外許されないっていう状況になって、集中して……。最近は新型コロナウイルスの影響で撮影ができないこともあり、今年の上半期は脚本しか書いてないですね。長編を5本くらい書きました。いつもは熱海とかに行って、ホテルにこもって脚本を書きます。


Q:脚本完成までのプロセスで、プロット作成があり、脚本に移る過程で「本打ち(脚本の打ち合わせ)」があるのかな?と思ったのですが、本打ちってそもそもどんなことを話すのでしょう?


藤井:一番オーソドックスなのはプロットを書いて、「ショートプロット」「ロングプロット」の2つを元に、構成に関して細かく話し合い、ディテールを作っていくやり方です。そのあとに、脚本の初稿に移ります。


初稿の時は「ちょっと登場人物の性格おかしくない?」とか「中盤のここのドライブが効いてないから違うアイデアにしませんか」とか、ざっくりした雑感を話し合いますね。二稿目、三稿目とか稿を重ねるにつれて、1ページずつめくって詰めていくようになります。


その中でたまに、プロデュースチームから、「ここはちょっと、こういったアイデアをやってみませんか」とか言われることがあるのですが、そういう時は「あぁ、予算的に厳しいんだろうな」とピンとくることがあります。「予算厳しいので、こう変えてください」って言うと僕がピリつくのを知っているので、そうは言ってこないんですけどね(笑)。その時は利口なふりをして「ハイハイ」って聞いて、でもその通りには直さない。みたいな、そういうせめぎ合いはありますね。


そして、その脚本を事務所に見せてキャストが決まってくると、俄然具体性が出てくるんですよ。今回で言うと、(清原)果耶ちゃんだったらもう少しこうしてみようかなとか、お父さん役が吉岡秀隆さんに決まったら、こういうキャラクターにもちょっと寄せてみようかなとか、そういう風にセリフとかを、どんどん直していきますね。クランクインまでは、もうずっと書いているっていう状況ですね。




前田:役者が演じることを想定して、脚本を作ることを「当て書き」といいますが、『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、当て書きしていく中でどんどん研ぎ澄まされた感じがありました。監督はシェフで、私はいい材料を揃えて「これでおいしいものを作ってください」って渡すような、そんな役割分担ですね。


Q:一般的な流れとしては、脚本がある程度完成形に近づいてから、役者さんが決まるのでしょうか?


藤井:基本はそうですね。その他だと例えば、映画会社の何十周年企画などで、主演はこの方でこの原作でやりませんか、とすでに色々と決まっている企画もあります。また、僕は仕事以外では、あまり俳優さんと会わないんですが、唯一話す存在――同世代だと濱田岳とかと、お酒でも飲みながら、「藤井ちゃんこういうのやろうよ」みたいに盛り上がることがあって、それで書いてみることもありますね。


デイアンドナイト』(19)は、阿部進之介と僕で何かやろうってところに山田孝之さんや色々な人が入ってきて、脚本を作っていくケースでした。


Q:『デイアンドナイト』はまさに複数人でブレストを重ねて練り上げていったかと思うのですが、1人で書く場合と何人かで一緒に作っていく場合、それぞれのメリットとデメリットを教えてください。


藤井:例えば僕には小寺和久という共同脚本家がいて、黒澤明と橋本忍じゃないですが、脚本には複眼性っていうのがあった方がいいと思っているんです。今回はその相方が、浩子さんだったと。


監督が脚本も書く場合、共同脚本家の存在が非常に重要だと思っています。「これってぶっちゃけどう思う?」とか相談もできるし、やっぱり誰かがいてくれることで、「違うんだ、これがやりたいんだ」って気づくこともあるんです。「相方」として小寺和久っていう脚本家は非常に優秀で、頼りにしてますね。


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