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『なぜ君は総理大臣になれないのか』大島新監督 エンタメとして高いレベルに達した、稀有な政治家ドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.63】

『なぜ君は総理大臣になれないのか』大島新監督 エンタメとして高いレベルに達した、稀有な政治家ドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.63】

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日本で政治がエンターテインメントになり難い理由とは?



Q:本作を見て強く感じたのは、なぜ日本では政治をもっと映画やテレビでエンタメとして取り上げられないのか、ということです。アメリカでは劇映画ですが『バイス』(18)など、際どいけど、優れた作品があります。


大島:日本でも昨年『新聞記者』(19)がありましたが、『バイス』との差が、日本とアメリカの政治を扱った映画の差ですよね。こんな言い方したら失礼かもしれないけど、エンタメとしての面白さは、『バイス』とは比べられないくらいじゃないですか。実名で描くかどうか、という腹のくくり方も含めて。まだまだ日本はダメですよね。


あと、日本の政治を扱うドキュメンタリーの貧困さについてですが、原因の一つは政治家への取材をテレビ局の報道記者が独占してしまうことにあるんです。僕も政治家のことはずっと番組でやりたかったんですよ。でもフジテレビにいた時は、報道の所属ではなかったですし、ましてフリーになってしまうと政治家に全く近づけない。


そんな中で妻から「私の知り合いが出馬する」と聞いたときに、「あ、初出馬の人なら俺でも取材できるかも」と思ったんです。まだ政治家になってない人ですから。もうすでに永田町にいる人は基本決まった番記者しか取材できない、フリーのディレクターなんてアクセスできないんです。


Q:私も番組を作っていると、日本の番記者、記者クラブ制度には弊害が多いと感じます。


大島:そうですね。だから映像表現に関していうと、各局の政治部文化みたいなものがあるから、貧困になってしまっている気はします。




Q:そういった状況の中で、より多くのお客さんに見てもらうために、映画の作りに対する工夫などは何か意識されましたか?


大島:映画の作りに関して言うと、途中からあまり考えなくなったんです。というのも僕はいつもある程度、自分と編集マンで編集作業を進めて行き、途中からプロデューサーとか、映画のスタッフにも見せて行く。それでかなり固まってから、映画に全く関わってない色々な人に見てもらって意見を聞いたりするんです。すると映画の途中で、気絶しちゃうくらい内容について来られない人もいるんです。


Q:そうなんですね。意外です。


例えば、作中に田崎史郎(※政治ジャーナリスト)さんが出てきますが、そもそも彼のことを知らない人とかいるんですよ。「誰この人?」みたいな。じゃあ「田崎史郎とはどんな人か?」から始めちゃうと、どうしようもない。だからそういうお客さんまではフォローしていないです。


普段、テレビ番組を作っていると、「わかりやすくしなきゃいけない」っていう強迫観念のようなものがありますから、「せめて映画ぐらい、俺が面白いものをやらせてよ!」みたいな感じはありますね。でもお客さんにサービスはしたいから、自分が面白い、というのを基本にしつつ、ちょっとだけお客さんの幅を広げるぐらいの感じでやれたらいいかな、とは思っていました。


Q:これから作品をご覧になる方々に監督からメッセージをお願いします。


大島:まずは作品として楽しんでいただくのが一番です。やっぱりドキュメンタリーの良いところは、みんな自分の背景を背負って見るので、見た人が100人いたら100通りの感想がある。家族のシーンにすごく自分の家の事を重ねる方もいれば、組織の都合で振り回されて苦労する男の物語という風に見る人もいると思うんです。そんな風に自分を重ね合わせて見てもらえたら嬉しいです。


あとは政治談義のお酒の肴にしてほしいですね。最近で言うと東京都知事選や河井克行・案里夫妻の逮捕とか、政治ネタがいっぱいある。そんな事を語り合うために、この映画をお酒の肴にしてもらえればいいなと思っています。





監督:大島 新(おおしま あらた)

1969年神奈川県藤沢市生まれ。

1995年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。

MBS「情熱大陸」、NHK「課外授業ようこそ先輩」「わたしが子どもだったころ」などを演出。

2007年、ドキュメンタリー映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を監督。同作は第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞した。

2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。

2016年、映画『園子温という生きもの』を監督。

プロデュース作品に『カレーライスを一から作る』(2016)『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018)など。

文春オンラインにドキュメンタリー評を定期的に寄稿している。



取材・文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。







『なぜ君は総理大臣になれないのか』

2020年6月13日(土)より 

ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国順次ロードショー

製作・配給:ネツゲン  (C)ネツゲン

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