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やっぱりアウトサイダーを撮るのが好きなんです『MOTHER マザー』大森立嗣監督【Director’s Interview Vol.66】

やっぱりアウトサイダーを撮るのが好きなんです『MOTHER マザー』大森立嗣監督【Director’s Interview Vol.66】

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女性のホームレスを描くことへの危惧



Q:長澤まさみ演じる母親の秋子や周平に、カメラが全く寄り添ってない印象がありました。あの親子をすごく突き放して撮っている感じがしたのですが、撮り方など意識された部分はあるのでしょうか。


大森:『タロウのバカ』(19)でも組んだ、今回のカメラマン辻智彦さんが、ドキュメンタリー出身で、今もフジテレビの「ノンフィクション」を撮影されている方なんです。彼は、そこで実際に児童相談所や役所を撮影していて、蛍光灯の冷たい感じは、そういった経験を生かして、今回も撮影しています。


また、基本的にカットをあまり割らず、カットバック用の撮影などはしていないので、役者を離れて撮るので、突き放しているように見えるのかもしれませんね。


Q:今回の撮影はあえて辻さんだったんですね。


大森:そうです。こういう内容は辻が得意だと思いました。脚本に、山谷のドヤ(簡易宿泊所)で撮影って書いてあったんですけど、普通は撮影できないわけです。部屋はたった三畳しかないし、スタッフもカメラも入らない。でも、辻も僕もここで撮影しよう!となるんです。他のスタッフはびっくりします。三畳に役者と僕と辻、撮影助手と録音部が入って撮影するんですが、辻はそういう撮影ができるんですよね。


Q:山谷で撮ってたんですね。驚きです。。


大森:山谷でずっとロケしてました。酔っ払いに絡まれながら(笑)。




Q:映画を見ていて気づいたのは、可哀想だなって、まるで野良犬を見るかのように憐憫の目で見てしまっている、自分の見下した視点でした。また、秋子を助けようとする男たちは、基本的にいい人なんですが、結局欲望に負けてしまう。


貧困に喘ぐ人に対する、そうではない立場の視点など、何か意識されたところはあるのでしょうか。


大森:今回一番意識したのは、女性がホームレスである事です。日本ではまだ許容されてないというか、みんなの共通意識の中で、それを受け付ける土壌ができてない感じがしていました。実際の映画の中で、家がなくて河原で寝そべるシーンがあって、子供を連れて寝そべっている状況が、どう捉えられるのか少し心配でした。


これまでの映画や演劇、写真などでもいいのですが、貧困でホームレスになってしまう女性って、あまり描かれてきてないと思うんです。なので、今回どういう風に見られるか想像がつかなくて、違う受け取られ方をして、成立しなくなるんじゃないかと心配しましたね。


「動物園物語」という戯曲があって、ニューヨークのセントラルパークで、ホームレスの男とお金持ちの男が出会って…という話なんですが、昔これを女性に変えて稽古したことがあるんです。そうすると、驚くほど成立しないんですよ。台詞回しから、存在感まで何もかも。それと同じ事になるかもしれないと、危惧しましたね。


視点の話でいうと、どういう視点で撮っていくかということは、僕は全く考えないです。逆に言うと、僕らが撮ったものが上から目線になっている可能性があったら、映画を撮る資格がないのかもしれない。でも、そういう部分を問われていること自体が、映画作りのスリリングさだし、そういう風に問われる場所にいたい気持ちはありますね。



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