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タイムマシン・デロリアンの最後のエネルギー【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.45】

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クレイトン渓谷の謎



 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作の地上波放映があったので久しぶりに観たけれど、やっぱりおもしろい。配信サービスでいつでもノーカットでフルバージョンが観られる作品ではあるけれど、テレビ番組の中に圧縮された密度にもよさがあると思う。白状すれば、ぼくはBTTFにせよ『スター・ウォーズ』にせよ、テレビの洋画劇場から入っているのだが、自分から選んでいない作品が勝手にテレビで流れるからこそ、知らないものに出会える楽しさもあると思う。


 ところで大人になってから余計な知恵がついた頭で見返してみると、いろいろと気になることも出てきた。パート1の山場でジョージがビフをノックアウトすると、危ないところを助けてくれたとは言えそれまでゾッコンだったカルバン・クラインことマーティのことをころっと忘れてしまうロレインとか、その後マクフライ家にとって都合よく改変される1985年にしても、本当に改変の影響はあの周辺だけで済んだだろうかとか(ビフが失脚したからには高校の様子もだいぶ変わっただろうし、そもそも改変後も同じ場所に住んでいるとは限らないなど、考えればきりがない)、マーティ世代のタネンはどうしていたのかとか(多少マーティと年齢が合わなくともビフには孫がいる以上子どももいるはずだが)、30年間時計台が修理されないのはどうしてなのかとか(1985年のヒルバレーはだいぶ寂れているが落雷の直後からしばらくは余裕があったはず)、とまあそんなレベルだが、こういうことを考えて自分なりに補完するのも楽しいところである。


 その中で特に気になったのは、パート3の西部開拓時代でドクのロマンスの相手となるクララ・クレイトンというキャラクター、そして本来彼女が落下して命を落とすはずだった渓谷についてだ。1885年にヒルバレーに転任してきた教師クララは、馬車の暴走により渓谷から落下しそうなところをドクとマーティによって助け出されるが、マーティの数少ない歴史の授業の記憶により、その渓谷は本来なら墜落死した女性にちなんでクレイトン渓谷と呼ばれるようになるはずだったことがわかる。ドクは些細なことながら歴史を変えてしまったことを悔やむが、クララとの恋に落ちてしまう……のだが、ここで少しひっかかることが。


 改めてパート3のあらすじを振り返ってみる。パート2の終盤(同時にパート1の終盤でもある)で、ドクの乗ったデロリアンが落雷の命中により消失してしまい途方に暮れるマーティだったが、間も無く、困惑する電信局員から70年間保管されていたという手紙を渡される。それはタイムサーキットの不調により本来戻るはずだった1985年より100年前の1885年に飛ばされてしまったドクからの、時を越えた手紙だった。


 そこに書かれた指示により、マーティは1955年時のドクの助けを借り、1885年時のドクが技術的限界から修理を諦め、古い坑道に保存したデロリアンを発見する。これを1955年に手に入る部品で修理すれば、マーティはもといた1985年に帰れるというわけだ。しかし、マーティは鉱山のそばにあった古い墓地で信じられないものを発見する。ドクの名前が刻まれた墓標である。1885年時のドクはマーティへの手紙を書いたおよそ一週間後、ビフ・タネンの先祖にあたるビュフォード・タネンの銃弾に倒れたのだ。手紙には決して自分を助けに来ようとはするなとあったものの、命に関わるのなら話は別だ。デロリアンの修理が済むと、マーティはドクを未来に連れ帰るため、ためらうことなく1885年に向けてアクセルを踏むのだった……。


 問題はこのマーティの新たな冒険のきっかけとなるドクの墓である。墓標には「永遠の愛とともに クララより」との言葉も刻まれており、ここから本作におけるドクのロマンスへの伏線が張られているのだが、なにかおかしくないだろうか?前述のように、クララはヒルバレーに到着してすぐに馬車の暴走により渓谷から落下するはずだったのではないか。ドクがタネンに撃たれるのはそれよりも後のことなので、彼の死を悼んで墓石に一文を寄せることなど不可能だ。これはどういうことだろうか。自分なりの想像も含めて考えてみたいと思う。



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