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大切なことは当たり前にあること『もち』小松真弓監督&及川卓也プロデューサー【Director’s Interview Vol.70】

大切なことは当たり前にあること『もち』小松真弓監督&及川卓也プロデューサー【Director’s Interview Vol.70】

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日常を生きるということ



Q:いよいよ映画館にかけられたわけですが、どういうところを見てもらいたいですか。


小松:ユナちゃんやしほちゃんのあの時しか出せない弱さと強さと清々しい美しさ。周りの人たちの生き生きとした言葉や、人や自然に溶け込む愛情ある普通の暮らしを、きちっと誠実に撮らせてもらい、私もその瞬間を一緒に生きていました。


この映画『もち』を見ると、日本人なら誰もが知っていることなんだけど、ちょっと自分が忘れかけていたことに気付いて、胸にチクッときたりするかもしれませんね。私はそれを撮ってきたつもりです。


私は昔、“人は一人で生きていける”と思っていました。そんな青かった頃の私にこれを見せてあげたいですね。


この作品を見た人が何かを感じてくれて、それでどういう映画なのか決めてもらえれば、それでいいと思っています。今は観てくださった方々の感想を伺って、この映画がどんな映画だったのか、改めて感じているところです。


Q:及川さんはいかがでしょうか。


及川:この映画は、新しい神話や寓話のようなものだと言いましたが、言い伝えのように長く見てもらえるといいですね。今回の上映は、この映画の旅のはじまりのようなもので、これをきっかけに広がっていって欲しいなと。全国の学校や施設で見続けられるとか、映画の舞台となった岩手県では毎年見続けられるとか、ずっと長く見られものであって欲しいです。


また、年月を経るにつれて、この映画が貴重な作品になってくるような予感もしています。




Q:実際に出演された一関の皆さんは、この映画をご覧になってどんな様子でしたか。


及川:出演された皆さんは、小松監督によって描き出された自分たちを初めて見たわけですが、自分たちの暮らしが大切なものだったと、改めて気づいたのではないかと思います。また、ユナちゃんは、何かをやり遂げたような、そんな気持ちを持っていましたね。


子供たちが日々の暮らしでやり遂げたこと、お爺ちゃんが今までやって来たこと、村がこれまで受け継いで来たもの、そんな当たり前にあることが実は大切なんだと、見た人が気づいていく、そしてそれが全国に広がっていく。そんな風になればいいなと感じています。


Q:普通に当たり前にあることの大切さ、それは今回のコロナ禍を経験してしまったからこそ、一層痛感する部分もある気がします。


小松:臼と杵を使ってみんなで「もち」をつく行為には、いろんな意味が隠されているんです。一つの臼で“もち”をついて、辛い時も楽しい時もみんなで分け合って一緒に食べる。そうして絆を深めていく。杵でつく人と“あいどり”する人のことも、おじいさんが劇中で少し語っています。


昔から受け継がれてきているものの中には、控えめで恥ずかしがり屋な日本人らしく、表には見えてない裏の部分に大事な意味が隠されている。私はそれを「やさしい暗号」と呼んでいます。先人が後世の人のためを想って残してきた大切な意味が、暗号のように残されているんです。“臼と杵”が“餅つき機”に変わって消えていったとしても、元々そこにあった「やさしい暗号」の意味を知ること、気付くことが重要なんだと思いました。


この映画を見た養老孟司さんが次のようなコメントくださいました。「全体的にとても懐かしいという感じです。特別な出来事はないけれど、日本人が日常生きるというのはこういうことなんだと納得します。若者にも年配にも見てもらいたいと思います。」この言葉を聞いて、今はこれが答えのような気がしています。


及川:「今撮らなければ消えてしまう!」と、小松さんが使命感のようなものを持って立ち向かったからこそ、ここまでの映画が出来たのだと思います。撮影もそうだし、上映もそうだし、ゼロから始めてここまで作るなんて、普通は出来ないですよね。


小松さんは感性の人で、空気の粒々を感じて出せる人なんです。その空気の粒々って、普通は気づかなかったり、やり過ごしたりするものなのですが、小松さんはやり過ごせない。何かに関わったり、ものづくりをしたりする時に、加減ができなくて命を削るようにやってしまうんです。まさに小松さんでなければ、この映画は出来なかった。すごい人です。



前編:撮影編はこちらから



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脚本・監督:小松真弓

神奈川県茅ケ崎育ち。武蔵野美術大学卒業後、東北新社企画演出部に入社。 

2011年より、フリーランスの映像ディレクターとして活躍する。

生き生きとした表情を引き出す独特の演出や細部美こだわった映像美に定評があり、これまでに500本以上の様々な映像作品を手がけている。

TV-CMの企画・演出を中心に、ミュージッククリップ、ショートムービー、映画、脚本、イラスト、雑誌ディレクションなど、フィールドを広げている。2011年には映画『たまたま』(主演:蒼井優)が劇場公開されている

http://mayumikomatsu.com/




 

エグゼクティブプロデューサー:及川卓也

(株)マガジンハウスクロスメディア事業局局長 コロカル統括プロデューサー

アンアン編集長を経て、2012年ウェブマガジン「コロカル」を立ち上げ。クリエイティブスタジオとして、地方自治体のブランドづくり、プロモーション戦略支援、オウンドメディア制作、人材育成等を行っている。2018年度から新潟県首都圏向けポータルサイト「新潟のつかいかた」、AIRDO機内誌「rapora」の制作運用を開始。書籍プロデュース「REVALUE NIPPON PROJECT 中田英寿が出会った日本工芸」、「colocal books 東北のテマヒマ」、「札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック 札幌へアートの旅」ほか。「世界遺産平泉・一関DMO」理事。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。






『もち』

7月4日(土)東京・ユーロスペースにてロードショー

製作:マガジンハウス、TABITOFILMS 協力:JA共済

配給:フィルムランド

(C)TABITOFILMS・マガジンハウス

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