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『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督 NYから帰国後、高校野球が日本社会の縮図に見えたんです。【Director’s Interview Vol.73】

『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督 NYから帰国後、高校野球が日本社会の縮図に見えたんです。【Director’s Interview Vol.73】

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高校野球にも押し寄せる変化の波



Q:新入部員の教育係の子もすごく印象的でした。横浜隼人って名門校だから、それぞれの中学校の野球エリートたちが入ってくるわけですよね、そこで教育係の3年生が、「俺はお前たちより、打てないし足も遅いかもしれないけど、でも自分の役目は教育係だから、そこはしっかり教育するぞ」みたいなことを言うんですよね。17〜18歳くらいで、そんなことなかなか言えないですよね…。


彼があの言葉を発したことによって、高校野球に対してガラッと印象が変わりましたし、素晴らしいなと思いました。


山崎:まさにその言葉を聞いたときは、自分が撮影していて最も感動した瞬間でした。メンバー発表や試合など、いろんな節目の日に立ち会って撮影させてもらっているのですが、この日は感情が抑えきれなくなってしまって…。まだ撮影の最初の頃だったのですが、あれを超える瞬間にあまり出会わなかった気がします。


あの瞬間を撮影した時は、別に近くに監督がいるわけでもなく、誰かに強制されて言わされているわけでもなく、彼の意志で自然とそんな言葉が出てきているんです。まさに野球部で学んで経験したことから出てきたのだと思いますが、すごく感動しましたね。


Q:働き方改革に代表される日本社会の変革の流れは、確実に高校野球にも来ているのだと、映画を見ると強く感じました。横浜隼人の水谷監督自身も、どこかで変わらなければと、葛藤しているようにも見えました。実際に監督と接してみてどういう印象を持たれましたか。


山崎:水谷監督は、100回記念大会に並々ならぬ思いで臨んでいた方だったので、そのタイミングで撮影できたことは大きかったですし、彼自身も撮影される事によるプレッシャーはあっただろうと思います。


甲子園は毎年やってくるものだし、毎年監督なりの葛藤や挑戦はあるかと思いますが、それでも特にあの年は、監督自身の中で何か考え直すきっかけになったのかなと、接していて強く感じました。




取材を始めた春先と、地方大会で敗れて夏が終わった時では、確実に変化が見られたと思います。「変わらないといけない」と監督自身が言っていますが、そう言って素直に認めることもなかなか大変だと思いますね。


映画の終わりの方で、花巻東で坊主頭が廃止になるシーンがありますが、実は今年の春から、横浜隼人も坊主頭を廃止したんですよ。


Q:そうなんですか!?それは大きな変化ですね。


山崎:花巻東の廃止をきっかけに、いわゆる強豪校と呼ばれるチームでは、この2年間で坊主頭を廃止にしたところが多いみたいですね。あの横浜隼人でさえも廃止にしたと言うのは、とても大きな変化ですよね。


時代の変化の中で、監督の皆さんは相当模索していると思います。池田高校の蔦監督世代の信念や情熱を引き継ぎながらも、それだけでは成立しなくなって来ている時代に、どう対峙していくか。自分たちが正解だと思ってやって来た蔦監督世代のやり方が、今は否定されつつあるわけです。そんな正解がない中で、それでも毎年多くの生徒たちを教育していくわけですから、相当大変で難しい職業だと思います。1年間密着して思いましたが、私にはこの職業は無理だと思いましたね。


水谷監督はこれまで30年近く野球部の監督をやってこられて、あれほどいろんな思いを懸けて目指して来た100回記念大会で、地方予選敗退という経験をするわけです。彼自身がその事実を認めて、変わっていけることはすごいことだと思いますし、そこは尊敬してしまいますね。


Q:時代の変化に自分が合わせていけるのか?葛藤する水谷監督自身がまさに日本社会の縮図のように感じました。100回記念大会で負けた後に、「もっと子供たちに寄り添わねば」とご自身の反省点を口に出されていたことは、とても印象的でした。


山崎:あそこまで晒け出してくれる被写体も、中々いないですよね。本当につらい敗北を喫して、元気がなくなっている状態を、普通は見られたくないし、そっとしておいてほしい状況だと思います。それでも撮影させてくれて話もしてくれました。


水谷監督の器の大きさがなければこの作品は成立しなかったし、彼の人生を通して高校野球の色んな重みと深さを表現できた気がします。



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