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『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督 NYから帰国後、高校野球が日本社会の縮図に見えたんです。【Director’s Interview Vol.73】

『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督 NYから帰国後、高校野球が日本社会の縮図に見えたんです。【Director’s Interview Vol.73】

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300時間の撮影素材が持つもの



Q:ドキュメンタリーは、撮影してみないと分からない部分も大きいかと思います。作品の全体的な構成は、撮影しながら組み立てていくのですか、それとも撮影が一通り全て終わってから組まれるのでしょうか。


山崎:ドキュメンタリーとしての高校野球のいいところは、春から撮ったら夏で終わると言う、時間軸があるところです。だから永遠に撮り続ける必要はないのですが、今回難しかったのは取材したチームが甲子園に行けるかどうかというところですね。当然ですが、試合はどこが勝つか分からない。追っていた選手がレギュラーになれるかどうかも分からないし、試合で活躍するかどうかも分からない。コントロール出来ないことがあまりに多いので、日々何を撮るかという判断には迫られました。


映画の中でフォーカスした選手は数人ですが、素材としては何十人もの選手を追っているんです。何が起こるかわからない部分が大きかったので、とにかくカメラを回し続けましたね。結果、撮影した素材は300時間にもなっていました。




撮っているときは必死だったこともあり、全体的な構成は編集段階で決めていきました。やっぱり現場にいると選手たちの情熱に寄り添ってしまうので、映画自体も必然的に選手たちが多くなるのかなという印象があったのですが、編集室で素材をじっくり見返していくと、監督たちが背負っているものや葛藤がより見えてきて、当初想像していた選手たちのシーンよりも、監督側の話が多くなりましたね。


7~8ヶ月かけて編集したのですが、その中で見えてきたものが、あの映画の構成に集約されていると思います。


Q:7〜8ヶ月も編集したんですか!?それはすごいですね。


山崎:今回の映画を作る前に、テレビ番組用などいくつかバージョンを作る必要があったこともありますが、編集では相当悩みましたね。素材も多かったので、全然違う映画が何十本も作れる可能性がありました。この映画で自分のやりたいことや表現したいことは何なのか、それを決めるまでに時間がかかったと思います。なかなかスムーズにはいかなかったですね。


Q:300時間という膨大な素材があれば、編集次第でどうとでも変わりますね。


山崎:300時間という時間は、映画の素材としても大事ですが、撮影者と被写体との関係性を作るための時間だったと思います。私たちがずっとその場にいるということが大事だったのかなと思いますね。


監督や選手たちにカメラを意識しないで欲しかったので、撮影現場では自分たちが空気のようになるよう心がけましたね。監督や選手たちにカメラに慣れてもらう意味でも、春先からずっと一緒にいて、ご飯の時も靴を並べるときもずっと張り付いて撮影していました。


そうしてずっと一緒にいると、やっぱり取材したチームには思い入れが出てきて、メンバー発表や試合後などは、自分の感情を切り離さすことが出来なくて、号泣しながら撮影することもありました。今泣き崩れるのは自分じゃない、ちゃんと仕事をしなければと必死でした。泣きながら撮影したのは、今までにない経験でしたね。


Q:最後になりますが、このコロナ禍のタイミングでこの映画が公開されることへの思いをお聞かせください。


山崎:今年の夏は甲子園が中止になってしまって、これまで長年続いてきた日本の象徴的な夏の風物詩が一つ無くなってしまいました。いつかまた甲子園は戻ってくると思いますし、それまでの“つなぎ”としてこの映画を楽しんでもらえると嬉しいです。


また、この甲子園がない夏にこの映画を見ることによって、改めて高校野球について考えてもらえるきっかけになればいいなと思っています。



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原作・監督 山崎エマ

神戸⽣まれ。イギリス⼈の⽗と⽇本⼈の⺟を持ち、ニューヨークと東京を拠点とするドキュメンタリー映像監督。19歳で渡⽶しニューヨーク⼤学映画制作学部を卒業後、エディターとして携わった作品はHBO、PBS、CNN や世界中の映画祭で放送・上映された。⻑編初監督作品『モンキービジネス:おさるのジョージ著者の⼤冒険』はクラウドファンディングで2000万円を集め、2017年ロサンゼルス映画祭でワールドプレミア。⽇本で2018年劇場公開。2019年にはNHK ⼤河ドラマ『いだてん』の紀⾏番組を担当。その他、『#dearICHIRO』(Yahoo!Japan Creators Program)や『CHAYA 魂の番⼈~エイリー舞踊団に捧げた半⽣』(NHK)なども監督。⽇本⼈の⼼を持ちながら外国⼈の視点が理解できる⽴場を活かし、⼈間の葛藤や成功の姿を親密な距離で捉えるドキュメンタリー制作を⽬指す。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。





『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』

©2019 Cineric Creative/NHK/NHK Enterprises

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