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CG化されたカートゥーンとしての『モンスター・ホテル』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.47】

CG化されたカートゥーンとしての『モンスター・ホテル』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.47】

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カートゥーンの息遣い





 怪物好き(特にドラキュラが好きだ)としてはパロディも楽しいのだが、より印象的なのは映像の全体に見られるカートゥーン的なノリである。というのも本作の監督ゲンディ・タルタコフスキーはハンナ・バーベラ及びその流れを汲むカートゥーン ネットワーク出身のクリエイターで、同スタジオの看板作品である「パワーパフガールズ」にも携わっているほか、同じく1990年代から2000年代のカートゥーン ネットワークを代表する「デクスターズラボ」や「サムライジャック」では原作と監督を務めており、ソニー・ピクチャーズ・アニメーションに移ってから手掛けた『モンスター・ホテル』は長編映画監督デビュー作となる。


 ハンナ・バーベラと言えば日本でも「チキチキマシン猛レース」をはじめ「原始家族フリントストーン」や「宇宙家族ジェットソン」などが有名で、はっきりした黒い線で大胆にデフォルメされたキャラクターが特徴的だが、その子会社として誕生したカートゥーン ネットワーク作品には、しっかりその遺伝子が受け継がれている(当のハンナ・バーベラはワーナーに吸収されて消滅した)。極端にデフォルメされた三人の少女が、やはり記号的に簡略化された街で悪と戦う「パワーパフガールズ」などを見てもそれは明らかで、タルタコフスキーによる「デクスターズラボ」や「サムライジャック」も直線的なデザインが印象的だ。


 『モンスター・ホテル』ではやたらとキャラクターたちが横並びになった構図や、こちらに横顔を見せるシーンが多用されているが、これがとても平面アニメ的な雰囲気というか、ハンナ・バーベラ的なものを感じる(「チキチキマシン猛レース」で車やキャラクターがひたすら横移動を続ける様子を思い出して欲しい)。



 また本物のモンスターを前に動じないジョニーと、彼を威嚇して追い出そうとする伯爵が繰り広げるドタバタも、「トムとジェリー」や「ルーニー・トゥーンズ」が代表するようなスラップスティック・カートゥーンの影響が感じられる(「トムとジェリー」はのちにハンナ・バーベラを設立するウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラがMGM在籍時に生み出した)。


 ドラキュラたちの造形にしても、テクスチャを重ねていくことでどんどん生々しい質感を得ているイマドキのCGキャラクターに比べるとそれほどリアルさはなく、どこか平面のキャラクターをそのままフィギュアに起こしたかのような印象だが、そういうほどよいCGの度合いが、古典的なアニメのノリよく合っている気がする。ドラキュラのシンプルな顔も、「パワーパフガールズ」のほぼ直線だけで描かれたユートニウム博士や、「サムライジャック」の主人公ジャックの顔にも通じるものがあると思う。


 タルタコフスキーと言えば、カートゥーン ネットワーク時代には『スター・ウォーズ』の外伝アニメシリーズである「スター・ウォーズ クローン大戦」も監督している。これは1話が短いものは3分、長いものでは12分程度という25話からなり、前述したような特徴的なタッチで『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』と『エピソード3/シスの復讐』の間を描いたシリーズである。のちに展開されるCGアニメシリーズの『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』のほうが今では存在感が大きいが、タルタコフスキーによる2Dアニメ版はそのプロトタイプとも言える作品である。


 内容に直接の繋がりがない上、CG版のほうが正史として残されたので、現状ではディズニーの配信サービスでも観ることができないが、2D版で初めて登場したキャラクターがCG版にも引き続き登場していたり、キャラクターデザインにも面影が少し残っていたりして、影響は少なくない。


 「クローン大戦」はその名の通りジェダイの騎士や銀河共和国の運命を決した伝説的な戦争を描いており、アナキン・スカイウォーカーやオビ=ワン・ケノービをはじめジェダイたちの戦いがメインに描かれるのだが、そこは「サムライジャック」で培われたであろうキレのあるアクションが存分に活かされ、トゥーンレンダリングで描かれた宇宙船が立体的な存在感を持って飛び回るなど、平面的な絵柄でありながら、奥行きのある世界観がよく描かれているところにはとても憧れる。


 CGでありながらカートゥーン的な雰囲気のある『モンスター・ホテル』は同じセンスによって生み出されているわけだが、もしもCG版の「クローン・ウォーズ」も引き続きタルタコフスキーが手掛けていたら、やはりふたつの次元の良さを兼ね備えた作品になったのだろうかと考えてしまう。



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