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映画監督、その未来は?『ミッドナイトスワン』内田英治監督が語る“日本映画界のリアル”【CINEMORE ACADEMY Vol.8】

映画監督、その未来は?『ミッドナイトスワン』内田英治監督が語る“日本映画界のリアル”【CINEMORE ACADEMY Vol.8】

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監督も役者も、モノじゃない



Q:課題が山積みですね……。


内田:いまはお金周りの話をしましたが、現場も大変です。特に商業映画だと、やりたいことがあっても「お金ないから無理」って言われて終わっちゃうことも多い。絶対そんなことないんですよ。だって僕たちはインディペンデント系の作品で、圧倒的に少ない予算をやりくりして工夫して、撮りたいシーンを実現させているわけですから。じつは500万の『下衆の愛』と『全裸監督』の違いを、僕はあまり感じませんでした。結局はクリエイティブ。脚本と演技、そしてアイデアだと思うんです。


あとこれもよくあることですが、メジャーデビュー作で若い監督が百戦錬磨のスタッフの中に放り込まれて、何もさせてもらえないというケース。僕自身、撮影時に演出的な面でNGを出したら「リテイクの理由説明しないとカメラ回さないよ」ってカメラマンにキレられましたからね(苦笑)。いまはもちろんないですが、未だに覚えてます。


Q:それはひどい……そんなことがあるんですね。


内田:日本って技術信仰が強いですからね。そこをなんとか耐え抜いて乗り越えて、今があります(笑)。もちろん今は今で、大変なことは多いですが。


オリジナル企画なんて、待っていても誰も「やっていいよ、お金出すよ」とは言ってくれないんですよ。壁の高さが半端じゃないし、そもそもオリジナル脚本だとメジャーどころは見向きもしないし。だから「資金はプロデューサーが引っ張ってくるもの」じゃなくて、監督自ら売り込んでいかないといけない。そのためには、お金の意識や知識もちゃんと持っていないと、太刀打ちできないんです。


でも、『ミッドナイトスワン』も時間はかかりましたが、草彅さんが脚本を読んでくれて実現できた。だから若い子たちには夢をあきらめてほしくないんです。この映画は企画自体は5年前から動いていて、最初は低予算でもまったくOKが出なくて、手を挙げてくれる方もいなくて、全然ダメだったんですよ。僕がこれまでに持ち歩いた企画の中で、最も大変でした。




ただ、テレビドラマも多く手がけられたプロデューサー、森谷雄さんが脚本を読んでくれて、草彅さんにつないでくれて、そこからは怒涛の勢いで決まりました。商業作品を多く手掛けてきた方だったから、面白がってくれて実現できた。


僕の営業スタイルは、とにかくいろんな人に脚本を読んでもらって、粘ること。今回も、そこは同じです。めげずにやったら、最終的に思ってもみなかった方向からOKが出た。


だからもう一度言いますが、あきらめてほしくない。僕たち映画監督は自分たちの幸せを、自分たちでつかんでいかないといけないし、その流れが少しずつ出てきているから。


Q:内田監督の今回のお話で、勇気づけられる作り手の方も多いと思います。


内田:そうだと嬉しいですね。僕も内心、こういったことを発言する恐怖は少しありますから。言いすぎちゃって「あいつ、めんどくさいな」って思われたら仕事が来なくなるでしょうし。それでも、伝えなければという危機感が勝っています。


映画監督って職業だから、おじいちゃんおばあちゃんになるまでとは言わないけど、ある程度の年齢になるまで続けられないと、おかしいじゃないですか。これは役者もそうだと思いますが、僕たちは死ぬまで監督であり、役者なんですよ。それを金銭的な理由で断念しなければならないというのは、悲しすぎますからね。俺たちはモノじゃねぇよ、って思いますよ、本当に。


でも誰も助けてくれないから、自分たちで勝ち取るしかない。そのためには「映画って金じゃねぇんだよ」っていう幻想からいったん脱却していかないといけないと思います。僕はインディペンデントも地上波も配信も経験して、やれるんじゃないかという手ごたえをつかんだので、このノウハウをこれからの世代に伝えていきたいですね。ターゲットを見据え、映画の企画から携わり、配信を理解して、宣伝やビジネスとしての部分にも絡んでいく。その中で、脚本と演技という二大要素を極める。海外では多くの監督が実践しています、新時代の映画監督像です。


今日お話してきたように、いま、これまでの通例を打ち崩す作品がどんどん生まれつつある。根本的な体制変更には時間がかかるでしょうが、この流れが広がれば、幸せになれるクリエイターが増えるんじゃないか。そう期待していますし、僕自身も『ミッドナイトスワン』や今後の作品で、この状況を変えていきたいですね。



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「夢」。これは、内田監督が2時間にわたるインタビューの中で、何度も口に出した言葉だ。


映画とは何か? きっと彼の中には、「夢を見せるもの」という想いが息づいているのだろう。映画を愛すればこそ、現状を憂い、よりよい環境になるために心を砕く――。内田監督の“声”が、多くの人々に届くよう、願ってやまない。



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監督・脚本:内田英治

ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊プレイボーイ記者を経て99年「教習所物語」(TBS)で脚本家デビュー。14年「グレイトフルデッド」はゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ブリュッセル・ファンタスティック映画祭(ベルギー)など多くの主要映画祭で評価され、つづく16年「下衆の愛」はテアトル新宿でスマッシュヒットを記録。東京国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭(オランダ)をはじめ、世界30以上の映画祭にて上映。イギリス、ドイツ、香港、シンガポールなどで配給もされた。近年はNETFLIX「全裸監督」の脚本・監督を手がけた。



取材・文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「 syocinema






『ミッドナイトスワン』公開中!

配給:キノフィルムズ

(c)2020 Midnight Swan Film Partners

公式サイト:midnightswan-movie.com

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